地球温暖化より星座占いを信じろ 『マリス博士の奇想天外な人生』

2010年4月23日 印刷向け表示
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採点:★★★★☆

みんなにお薦め

「ご冗談でしょう、ファインマンさん」に次ぐ、面白科学者自伝。こういう本を大学入る前に読んでれば、もっと違った研究生活が送れたんだろうなぁ

マリス博士の奇想天外な人生 (ハヤカワ文庫 NF) マリス博士の奇想天外な人生 (ハヤカワ文庫 NF)
(2004/04/09)
キャリー・マリス

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おもろいおじさんの本

DNAの複製技術「PCR」を彼女とのドライブ中に思いついちゃった生化学者(自称オネスト・サイエンティスト)の自伝本。この本のタイトルの通り「奇想天外」な人間である。サーフィンをして、女好きで、結婚・離婚を繰り返して、LSDをやって、O・Jシンプソンの弁護チームに参加して、なんとも楽しそうな人生である。

「奇想天外」科学者といえば、ファインマンを思い浮かべる人も多いだろうが、この2人にはかなり共通点が多いと思う。以下6つ程挙げてみた


1)自分で考える:マリスさんはエイズの原因がHIVウィルスであることを示す証拠がないことを徹底的に追究する。ファインマンさんもカルトカーゴサイエンスを徹底的にやり込める

私たちは自分の頭で考えねばならないのだ。誰かが七時のニュースで地球上の気温が上昇傾向にあり、海洋が汚水で満たされ、物質の半分が逆行していると言っても、それを鵜呑みにしてはならない。メディアは科学者の思いのままだ。科学者の中には、メディアを実にうまく言いくるめる能力にたけた人々がいる。そしてそのような有能な科学者たちは、地球を守ろうなどとは露も思っていない。彼らがもっぱら考えているのは、地位や収入のことである。

2)自分で創る:マリスさんは6歳のころから家の電気をいじりまくる。ファインマンさんもラジオを作って町の修理屋さんになる

3)数字に強い:どちらも暗算でなんやらごにょごにょ計算出来る

4)ジョーク好き:マリスさんは自分の講演をキャンセルした製薬会社からしっかりカネをせしめるし、ジョークでおちょくる

5)自分の体も好奇心の対象:どちらもドラッグを自ら試したり、超常現象を「自分の眼」で検証する

6)とにかく楽しそう:なんやら人生をとても楽しんでいる。マリスさんが生化学と宇宙物理学どちらを選考するか悩んだときに考えたことは「宇宙論はきわめて抽象的な話が多い。たとえばパーティーで、素粒子中世系恩の崩壊速度がどうこう言っても、二十二歳の女性に対して会話が成り立つはずもない。生化学ならたとえば、クスリの話ができる。」うーん。素敵だ


こういう人たちの生き方・考え方に触れると、周りの評価軸に合わせて、自ら考えることを放棄してせこせこ受験勉強して、大きい会社に入ってしまった自分が本当にちっぽけな存在であると気づく。マリス博士は本当に「奇想天外」なのか?自分で考えることなく、人生を他人に委ねてしまっている自分の方がよっぽと「奇想天外」なのではないか?

邦訳が出たのが2000年だが、近年益々喧しくなっている「地球温暖化議論」に関して、未だに最も明快な本でもあるのではないか。各国政府はマリス博士を納得させてから税金をじゃんじゃか使ってほしい。

われわれ人間は実はアリ同然の無力の生き物であることを忘れてはいけない。たとえ信仰の言葉が力をもたなくなったとはいえ、人間が神になったわけではない。この地球の主は人間であり、諸般の事物を見守る使命があると考えるのは誤りだ。現在の気象は、たまたまこうなっているだけのことである。今後、それをずっと保全していこうと考えるのはあまりに傲慢である。人類が地球のすべてを支配し、すべての環境と生物は今後ずっと不変不滅である、そうして輝かしい二十一世紀を迎える、どんな生物も絶滅させてはならない。それは新しい生物を受け入れないと言っているに等しい。進化論の否定である

訳者も今をときめく福岡伸一さんだし、非常に読みやすい本である。

松岡正剛さんの書評はこちら松岡正剛さんのこの本への書評

非常に面白い本だけど、「ご冗談でしょう、ファインマンさん」を読んだときほどの衝撃はないので、星は4つ。

ちなみに、星4つの本は「考え方に新たな視点が得られた本」or「面白くて寝られなかった本」ということにしている。

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