冷戦が終わり共産主義・社会主義のイデオロギーが廃れる中、なぜ中国は現体制を維持できているのかとても不思議だったが、本書を読んで合点がいった。とても古典的ではあるが人事権の掌握が鍵だったのだ。
本書はこれまで秘密にされてきた中国の統治形態を暴く本であり、おそらく今後の中国研究論は本書をネタ本として議論がされていくだろう。中国に関心ある人や、今流行りの国家資本主義(*)を理解しておきたい人にはオススメ。何事もネタを押さえておくことが肝要だ。
中国の政治・文化・経済を語るに当たっては、「党」の存在を切り離すことはできない。なぜなら内閣、メディアのトップ、国営企業のトップの人事権は、それぞれの組織ではなく党が持っているからだ。中国ビジネスマンで昇進意欲の高い人は、党に気に入られないと上に上がれない。欧米で教育を受けたリベラルな中国人経営者がたまに公式な場で共産主義を褒め称え、皆を困惑させるのはこのためである。各界のエリート層は、党から信頼を得られるように仕事をしている。
中国共産党のトップは胡錦濤。彼は中国の国家主席であると同時に中国共産党の総書記である(しかも総書記の方が国家主席よりも上位に当たる)。彼の下には9人の中央政治局常務委員がおり、彼ら9名が総勢13億人の国民の全てを統治している。統治すると言っても彼らの仕事は、内閣制における大臣のように具体的な政策に携わるのではない。国・経済・公共事業・軍・警察・教育・社会組織・メディアに対する党の支配力をより堅固にすることと、中国という国のイメージを管理し、弱体化していた国から強力な国家へと変貌を遂げ、文明を蘇らせたという復活の物語を作り上げることである。支配力を堅固にするために、軍部、あらゆる人事、メディアを掌握しようとしてるのだ。海外メディアはあまり焦点をあてないが、政府ではなく党が中国を統治しているのである。
国家資本主義のイデオロギーは「権力主義」。国家資本主義の代表格である中国では、権力を維持することがトッププライオリティー。本書を読めば、党のすさまじいまでの権力への執着が判明する。昨今の経済成長も、軍事力強化も、歴史操作もすべて権力維持の手段にすぎない。それを支えるのが中央政治局常務委員会の9人である。
本書は、秘密主義を貫く中国共産党がどのようにして成長著しい巨大国家を統治しているかを説明する極めて稀な本。人間、秘密にされるとどうしてもその秘密を暴きたくなる。元『Financial Times』北京支局長の好奇心が可能にした良書である。
(*) 政治経済の対立軸は、社会主義vs資本主義→アングロサクソン型資本主義vsライン型資本主義→国家資本主義vs自由市場資本主義へと変遷している。