著者の安藤健二氏はノンフィクション作家である。パチンコにアニメとは、一見大衆誌のサブ・カルチャー特集のようなテーマではある。しかし侮ることなかれ、この本ナカナカ良くできている。パチンコ・宝くじ未経験はおろか、ラスベガスですら一度もギャンブルに手をつけなかった私が一気呵成に読破してしまった。
『パチンコがアニメだらけになった理由』をおススメする4つの理由
【其ノ壱】: トピックがまさに旬
テレビではアニメのものと見紛うパチンコのCMを目にし、街ではアニメ・キャラクターを配したパチンコ店の看板と遭遇する。今やアニメ・パチンコを目にしない日はない。
そして、多くの方が「なぜパチンコがアニメだらけになったのか」と一度は疑問に思ったはずだ。そして、「アニメがパチンコ台になる理由」という意外な盲点をついた本はこれが本邦初である。
【其ノ弐】: 読者の「なぜ」に答えていく一貫した姿勢
それでは、本文で読者に対し納得のいく答えを用意しているかであるが、その点この本は良心的だ。かりに読者がアニメやパチンコの知識がなかったとしても、「エヴァンゲリオン」「確変」「リーチ変動」など用語については、話の展開に合わせて説明が付されている。著者自身も当初はパチンコに関しては全くの素人だったこともあり、終始初心者目線で語ってくれている。
また各章ごとの話の展開も、成功事例の『エヴァ』、二匹目の泥鰌を狙った『アクエリオン』、アニメとパチンコのタイアップの必然性、パチンコ業界、アニメ業界、業界の規制(警察)について、など多角的にアニメ・パチンコ事情がとらえられている。「言われてみればどうなっているのだろう?」と好奇心が都度喚起され、テンポよく読み進めることが出来る。
【其ノ参】: 粘り強い取材によるこの本ならではの情報リソース
そして、取材を進めるにつれパチンコ業界の閉鎖的な性格が浮き彫りとなってくる。正面から挑めば大手は軒並み取材拒否。この業界は、パチンコ店に隣接して景品交換所を置く『三店方式』という営業形態、警察の天下り先としての業界団体の存在、在日韓国・朝鮮人が多いという民族的事情などを外部から包み隠すためか、秘密主義が浸透している。
ここでモノを言うのが人脈である。筆者はアニメ会社、代理店などのツテをたどってパチンコ台メーカー2社との取材の機会を得る。外からは見えづらい業界だけに内部の声には価値があり、記事の信憑性も増すというものだ。
【其ノ四】: 当初の予想の裏をかく結論
本書を読むと、知名度の低いオタク向けアニメがパチンコになっているのはパチンコ経営層やパチンコユーザーがアニメ世代だからというわけではなく、パチンコ・アニメ両業界の利害が一致したことが原因だということが分かる。
パチンコ業界としては、プリペイドカード方式のCR機で「大当たり」の期待を高めるための液晶コンテンツが欲しい。パチンコ演出にとって重要なのは、アニメの知名度以上にキャラ設定やストーリー展開であるが、資金力のない中小メーカーは知名度の低いコンテンツで勝負をせざるを得ないという台所事情もある。
アニメ業界の狙い目は「パチンコマネー」である。パチンコ化を許諾すれば最低でも数千万円単位のライセンス料が手に入る上、パチンコCMが流れることで原作の人気が復活するのでは、という期待も膨らむ。
派手な広告で一見羽振りの良さそうな両業界であるが、実は負け組同士のタッグマッチというのが内情のようだ。パチンコ産業も「貸玉料」が95年の約30兆円が08年には約21兆円と激減、アニメ産業も映像ソフト出荷額が05年の971億円が09年には736億円と4分の3程度まで落ち込んでいる。しかも、かさんだパチンコ広告費を新台の値段に価格転嫁、店舗では利益確保のため釘を締め、出玉がシブいと見たファンが離れていく。アニメ業界も、ギャンブルに魂を売ったと作品にレッテルが貼られればファンが離れていくという爆弾を抱え、両者ともに負のサイクルに陥ってしまっている。
やはり、これも国内産業が成長を描き続けるには外に打って出なければ限界が来ているという一つの証左とも解釈できる。いつまでも規制や国内マーケットに「逃げちゃダメだ」ということか。