熊本といえば、阿蘇山であり、熊本城であり、北里柴三郎であり、川上哲治であり、水前寺清子であり、辛子蓮根であり、馬刺だったはずである。しかし、今は違う。熊本といえば、ゆるキャラ界の人気を ひこにゃんと二分する くまモンなのである。『ゆるキャラ格』としては、ひこにゃんに一歩ゆずるような気はするが、関連商品売り上げはすでにひこにゃんを超えている。
ご存知くまモンは、熊本もどぎゃんかせんといかんと熊本県庁に結成された『チームくまモン』が放った大ホームランだ。しかし、最初からくまモンありきのプロジェクトだったわけではない。熊本・天草出身の小山薫堂氏にアドバイザーを依頼した『くまもとサプライズ』プロジェクトのロゴといっしょに、頼みもしないのにくっつけられてきたイラストがくまモンのはじまりだった。
九州新幹線が鹿児島まで開通するのにあわせ、素通りせずに熊本でも降りてもらおう、というのがプロジェクトの目的だったから、最初のターゲットは関西地区であった。もう2、3年も前になるだろうか、くまモンが失踪したので、どこかで見つけたら報告してください、という『くまモンを探せ』キャンペーンを大阪のFM局でやっていた。それを聞きながら、“『くまモン』ってなんやねん、なんかわからへん奴をどうやって探せっちゅうねん”と、車の中で一人つっこんでいたのを覚えている。
この失踪キャンペーンや、熊本県知事といっしょに吉本新喜劇の舞台に立つというニュースなどで、くまモンは大阪地区での知名度をぐんぐんあげていった。初年度である平成22年度の予算は8千万円であったが、その経済効果は、その8倍にものぼったという。完全に作戦勝ちである。しかし、こんなに高い効率をあげてしまうというのは、公務員としてあるまじき恥ずかしいことのような気がしないわけでもない。
くまモン、愛くるしいというか、暑苦しいというか、なんともいえない雰囲気を持った公務員である。知らなかったのであるが、でかいのに、まだ子どもらしい。しかし、子どもの公務員って何やねん、法律違反ちゃうんか… まぁええ。くまモン、もちろん熊本生まれであるが、もまれ育ったのが関西であるせいか、タイトルに使った『よろしくま!』をはじめ、その語録の『くまリティー』は相当に高くて、つっこみどころ満載。
“子どもだけど、メタボ” << 子どものくせに えらそうにいばるな。
“能ある熊です。自分で言うのもなんだけど” << なんか読みにくいがな。
“これでも、仕事中です!” << 公務員みたいな言い訳するなっ。公務員やけど…
“写真、撮り放題” << なにさまのつもりやねん。
“性格が、ゆるキャラ” << おもろいこというやないか…
次に大当たりした作戦は『ゆるキャラから 売るキャラへ』。どこまでもギャグっぽい作戦による商品タイアップであるが、この作戦も知名度アップに拍車をかけた。『こんな馬鹿げた話に…』、『どこの物好きな企業が…』と思いながら、『来てくれないから、売りにきた』と、最初に訪問した会社は大阪に本社のある UHA味覚糖であった。さすがくまモン、嗅覚が鋭い。
UHA味覚糖の山田泰正社長とは『普超会(ぷっちょかい:中国語では「ぷっちょ」を「普超」と書きます)』という秘密結社を通じて交流があり、そのお人柄をよく存じている。「ぷっちょってハイチューのぱちもんとちゃうんですか?」というような無礼きわまりない質問をぶつけられた時以外は、決して怒ったりしない、温厚なおもろい人である。 (ちなみに、初対面の時にその質問をして厳重注意処分をうけました…。)
『AKB48ちょ(エーケービー フォーティーエイちょ)』をプラニングするような、ちゃらけた、じゃなくて、アイデアあふれる社長であるから、くまモンのお誘いを断るはずもない。山田社長が小山薫堂氏と親しかったということもあり、一発で『くまモンぷっちょ』の開発がきまった。この、本格的タイアップ第一号を皮切りに、あちこちで続々と『くまモン商品』ができ、すでに売り上げは300億円に届こうというのだから、すごい。ただし、キャラクター利用料はタダ。くまモン、えらい。
熊本県産の食材を使った『くまモンドセレクション』までやるとは、あなどれん。しかし、くまモンドってほとんどパクリやんか… もちろん営業能力だけではない。くまモンは見かけによらず敏捷であり、『もん!もん!もん!くまモン』という音楽に合わせてステップをふみ、熊本固有の方言『あとぜき』で見事にしめくくる『くまモン体操』も軽やかだ。なんでも、熊本の学校ではラジオ体操の代わりにこの体操がとりいれらているらしい。 (すみません、ウソです…)
肥後、熊本といえば、肥後ずいき、じゃなくて、肥後もっこす。頑固もんなのである。が、私的には、どうも、くまモンのゆるいキャラが、熊本人のイメージとかぶって見える。なんとなく、熊本出身の知り合いは、くまモンっぽい人が多いような気がするのである。あくまでも、身の回りのごく少数例をサンプルにしての話であるから、そんなことなかと、とか思う熊本県人は気にしないでいただきたい。
『肥後の議論倒れ』とか『肥後の引き倒し』とかいう言葉があるように、議論好きであるが実行は伴わず、成功者の足をひっぱるところがあるというのが、熊本の気質だと言われてきた。(これは、あくまでも、そう言われてきたのであって、私が思っているわけではありません。念のため。)しかし、くまモンの場合はまったく違う。チームで議論をつくして行動し、くまモンをもり立てていったのである。まぁ、くまモンの足を引っ張ったところで、しゃあないとは思うが。
そんなん、くまモンのキャラがよかっただけで偶然ちゃうのん、という人がいるやもしれぬが、それは違う。片野ゆかの感動的作品『ゼロ!』には、誰もが不可能と思っていた、犬や猫の殺処分を実質上ゼロにしたという、熊本市動物愛護センターの、くまモンプロジェクトに匹敵する奇跡的な話が描かれている。
『くまモン』も『ゼロ!』も、公務員のお話であるっちゅうのが、なんだかびっくりなのだ。どうも、熊本県民というのは、力をあわせて、そして、調子に乗りさえすれば、たとえ公務員であっても(スミマセン…)、誰もが予想しなかったとんでもない力を発揮するようなのである。あの阿蘇山の噴火のごとく。
くまモン、どこまで快進撃を続けるのだろうか。くまキャラ界の東西横綱、リラックマとプーさんを追い越していくのだろうか。まさかとは思うが、ミッキーマウスのように登りつめ、そのうち、熊本県のフリガナが『くまモンとけん』になったりするのだろうか。ここまで来たのであるから、とことんまで行ってもらいたいものである。メタボとはいえ子ども、先はまだまだ長いのだから。
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みんなの思いを一つにすれば、できないことなど何もない。勇気と希望を与えてくれる一冊。
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くまモン産みの親、小山薫堂氏の本。チームくまモンのバイブルでもある。
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