本書によると、将来地球上から海が消え、人類が絶滅してしまう可能性があるそうだ。
地球の内部では、ウラン・トリウム・カリウムなどの放射性元素が崩壊を繰り返し、熱を放出し続けている。それによって地球は内部から温められ、地球が凍りつかない仕組みになっているのだ。しかし、地球誕生からおよそ約46億年経った今、地球内部にあるウランの量は半減しており地球を暖める熱源は徐々に低下している。
地球が冷えていくと何が起こるのか。海溝から地球の内部へと沈み込むプレートに含まれる大量の水を地表に押し返すマントルの力が弱まり、海水がどんどんと地下へと引きずり込まれていくという。この悪循環が続けば、やがてはすべての海水が地下深くに没してしまい、地球から水が消滅すると予想されているのである。
水がなくなると地表は徐々に砂漠化し植物が死滅する。この結果、光合成による酸素の供給が途絶え、地球は二酸化炭素の多い火星のようになってしまい、人類が住める星ではなくなってしまうという。なんとも恐ろしい顛末である。もっとも、本書によると今から10億年後の話なので、よほど長生きしない限り心配しなくて良さそうではあるが。
海の消滅による人類滅亡シナリオをつきつけられて初めて海のありがたさを身に染みて理解できる、というのは大げさだが、海が地球に与える影響の大きさを理解できる一例である。本書は、そんな地球にとってかけがえない海が、いつどのようにして誕生し、現在の姿になるまでにどのような過程を経てきたかという大スペクタクルを解説する。中でも、節目節目に発生する「海の大事件」紹介がたまらなく面白い。
紹介されている事件の中で一番興味深いのは、ペルム紀末(約2億5220万年前)の海で起こった「海洋無酸素事件」。この時期、海洋の酸素がきわめて乏しくなったという。実はこれがたまたま地上側で起きていた地球史最大の大量絶滅が起こった時期と重なっているのである。「海洋無酸素事件」の原因はまだ判明していないが、地球温暖化によって今話題のメタンハイドレードからメタンが大量に溶けだし、酸素と結びついて酸素濃度が下がったとする説が有力だ。もしそうだとすれば、メタンは大気中にも放出されるはずで、同じ仕組みで大気中の酸素濃度を下げて地表で生息する生物に影響を与えていた可能性がある。海洋無酸素事件と地球史最大規模の大量絶滅の因果関係はまだ立証されていないが、海底で起きた現象が生物にも大きな影響を与えたと考えると面白い事件である。
600万~500万年前のメッシーナ紀に地中海が干上がってしまう事件も紹介する。この頃、寒冷化の影響で海面が下がり、地中海の出口であるジブラルタル海峡(ヨーロッパ大陸とアフリカ大陸を隔てる海峡)が閉ざされてしまっていた。大西洋からの水が流入しなくなった地中海は湖のようになってしまい、蒸発が起こって干上がってしまったというものである。その後、海面がもとの水準に回復したとき、ジブラルタル海峡やボスポラス海峡(地中海と黒海を隔てる海峡)を経て大量の海水が一気にかつ大量に地中海・黒海に入り込んだのがノアの洪水という説があり、これまた面白い事件である。
普通、こういった骨太の内容は分厚い本になりがちだが、本書はブルーバックス新書として200ページ以下にまとまっている。お値段も820円と格安。ここ最近で一番のコストパフォーマンスであり、買って損のない一冊である。
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上記で紹介したノアの洪水説は『ノアの洪水』コロンビア大学の海洋地質学者が唱える説だ。成毛眞のレビューはこちら。
上では紹介しなかったが、地表が一面凍ってしまったという説のスノーボールアースは、本書の内容と密な繋がりがある。過去のレビューはこちら。