ゴルフ場と持続可能性、この意外な組み合わせにそそられて、本書を手にすることになった。アリにも、野球にも、これっぽっちも興味を示さない成毛眞が、3月の朝会で、がっつり食いついた。
そして、本を読み漁っているHONZメンバーの、誰も聞いたことがないビジネスモデルを話し始めたのだ。その折に、ゴルフ場の墓地への転用という、これまたそそられる組み合わせが話題にあがった。本書はたった88Pの薄さにも関わらず、そんな内容までカバーしている。
本書は、『月刊ゴルフマネジメント』という雑誌で連載された余剰ゴルフ場を研究した内容を、まとめ直したものだ。関係者をあっと驚かせ、危機感を煽る目的で書かれたわけではない。著者は、根も葉もない素人ではなく、現在、国連大学内のサステナビリティと平和研究所に所属する学術研究官である。こんな研究のテーマありなの?と思ってしまうが、読み進めるうちに、将来の地球環境への影響が大きいことが、数字を通じて、伝わってくる。
そもそも、世界には約35100カ所のゴルフ場があり、アメリカ、イギリス、日本が世界のゴルフ場数トップ3で、ニュージーランドが人口当たりのゴルフ場数で、第一位である。世界全体のゴルフ場の敷地面積を日本のゴルフ場をベースにして推計すると、茨城、埼玉、千葉、東京の4都県の面積とほぼ等しくなる。
先進国がゴルフ場数全体の90%を占めているが、現在は新規開発が鈍化している。その一方で、途上国(OECD非加盟国)では、開発がかなり盛んで、1人当たりの国民総所得が2万ドル超えると、ゴルフ場が徐々に多くなる傾向がある。例えば、中国では1984年に最初ゴルフ場が建設され、1994年までたった16カ所のゴルフ場しかなかったが、2009年には348カ所に一気に増加した。現在では、政府により、ゴルフ場新設は禁止されているが、数百の開発計画があるとされており、海南島だけで100以上の新設が見込まれている。
そんな中、人口減少が見込まれる日本では直感に違わず、ゴルフ場は余るらしい。より正確に言うと、現在、日本全国で約2400カ所あるゴルフ場が、2035年には最小で335カ所、最大1041カ所が、余剰ゴルフ場となる可能性がある。2009年までに、全体の約25%である600を越えるゴルフ場が倒産の憂き目に遭遇しているが、外資系企業を中心に、買い手は見つかっていた。しかし、この先、買い手がつかないゴルフ場が増えると予測されている。
本書で一番の見所は、余ったゴルフ場をいかに再編し、何に転用すれば、価値があるか?を分析しているところだ。例えば、東日本大震災後、ソフトバンクがエネルギー事業に乗り出したとき、メガソーラーの建設場所に、群馬県のゴルフ場跡地が活用された。転用オプション一覧は20種類紹介されており、経済性と環境負荷、具体的事例がまとめられている。ゴルフ場跡地の価値を最大限に生かせる転用方法には、まだ答えはでていない。
この他、ゴルフ場のライフサイクル分析、カーボンフットプリント、余剰ゴルフ場の発生メカニズム、発生要因と実態調査など、ページをめくるにつれて、マニアックになっていく。とりわけ、バンカー、ラフ、ティ跡地などで出現種をまとめ、分析し、植物の写真まで掲載されている閉鎖ゴルフ場での植生変化には驚いてしまう。
ゴルフをプレイする人にとっては、スコア向上につながるアドバイスがあるわけでもなく、ゴルフ場での取引先や上司へのヨイショが、うまくなるノウハウ本でもなく、役に立たないかもしれない。本書で身につけた知識を、ゴルフ場や喫煙ルームで披露すれば、エコ・コンシャスな変人と認識されてもおかしくない。本書はゴルフへの関心の有無に関係なく、社会性と事業性を両立させた新規事業を企画したいビジネスマンや、地域の活性化に勤しむ方々に読んでもらいたい。ピークを過ぎ、市場が縮小する日本で、新しいビジネスを考えるために、ゴルフ場の将来予測と転用・再編には、参考になるヒントが多数あるはずだ。
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