一昨日まで銀座ミキモト本店で「指輪-その饒舌なる小宇宙の物語」展が開かれていた。世界有数の指輪の収集家で知られる橋本貫志が所蔵する約850点の指輪の中から約60点を選び、それらを紀元前1900年から1400年代まで、1500年から1600年代、1700年代から1930年代、1945年から現代と大きく4つの時代に分けて展示していた。
本書は展示物を含め88点の指輪を上質紙にグラビアで紹介したものだ。被写界深度が非常に浅いため、全体的にちょっとピントが甘めにみえる写真が大変美しい。展覧会の図録のようだが、絵画や彫刻とくらべ、モノが小さいために本書だけでも十分楽しめる。
第1章の1点目は紀元前1991-1650年のエジプトで作られたアメシストの指輪だ。モチーフはスカラベだ。以下、古代エジプトから3点、おなじく紀元前のエルトリア、ペルー、ギリシャ、ローマの指輪が続く。古代の指輪でもじつに美しい。
第2章の1点目は16世紀のドイツで作られたシールリングだ。封蝋に印を押すためのリングなのだが、そのための紋章は表面の透明な水晶に刻まれ、その奥に金や赤や緑などの色が写り込んでいる。欲しい。
同じく17世紀のドイツで作られた金のリングは一見すると普通の結婚指輪のようなのだが、4か所のヒンジを広げると天球儀になる。レプリカを作れば、売れることは間違いなさそうだ。
目を惹いたのは、19世紀フランスのガーネットで作られたブドウの房のようなリング、リュシアン・ガイヤールの七宝リング、六角形のダイヤモンドを蜂の巣のように組み上げたリングなどだ。最後の2点は現代のカレッジリングとオブジェに組み込まれたリングだ。
本書は14人のジュエリー関係者が分担して執筆しているので、それぞれの指輪についての宝飾品としての解説も同時に楽しめることができる。指輪が作られた歴史的な背景を期待する読者には不満が残るかもしれないが、むしろ指輪から自分の知識を総動員して想像する楽しみがある。
本体価格は2000円で220ページの本だ。2000円の指輪を買うよりもはるかに価値が高いことは間違いない。