『現地発 エジプト革命』
川上康徳(著)
岩波ブックレット (2011/05/10)
ムバラク大統領が辞任した日は、日本もツイッターが騒がしかった。最初の一報は、New York Timesの記者のつぶやきで知った。もちろんアルジャジーラは数日前からお祭り騒ぎだ。タハリール広場は群衆で埋め尽くされていた。ネット生中継を見ながら、よくわからないけどすごいことになった、と思った。「まるでワールドカップで優勝したかのようだった」と書かれているが、画面で見てもその雰囲気は伝わってきた。震災前の、今は昔の話だ。
本書は、有料Webマガジン「Asahi中東マガジン」に掲載されていた【エジプト緊急報告】を加筆して再録したブックレットである。1月25日の最初のデモから大統領辞任までの18日間、ほぼ毎日の出来事を、編集委員として滞在していた著者が現地報告した。「明日はどうなるんだろう?」という状況の連続だったことがよくわかる。63ページ500円。お買い得だろう。
この反政府運動、「○○が関係していた」とか、真偽が定かでない情報を見かけるし、リビアは今でも紛争中だ。もう少し時間が経たないと本質はわかってこないだろう。でも、やっぱり本書を読んで思うのは、インターネットと携帯電話の力は大きかった。ネットのコミュニケーションが独裁のパワーに勝ったような感じだ。警察が一般人に暴力をふるう姿が、その場でyoutubeにアップロードされるようになった。政府が通信網を遮断しても、怒りを増幅させる効果しかなかった。もはやネット以前の世界に逆戻りするのは難しいだろう。
この勢いで世界がネットでつながっていくのなら、「多様性」に対処できる能力がより重要になるんじゃないだろうか?だとしたら、震災で「博愛」を学習するはずで、宗教にもわりと寛容で、国際的な好感度がけっこう高い日本、今はツラくとも、超長期的にはいいのかもしれない。数十年後、優しくて優秀な日本の若者が、通訳アプリ片手に世界を飛びまわっていたりして。そんなことを思ったりする、2011年6月であります。