福島原発事故のニュースが毎日途絶えることがない。科学技術用語が巷でも飛び交い、なんとかそれを理解しようとする人が増えてきた。政府だけでなく専門家も信用できないということが、皮膚感覚で判ってきたからだろう。原子力は人間が作り出した究極の複雑技術のひとつだが、球は人間が作り出すもっとも単純な技術のひとつである。
『球体のはなし』柴田順二著は、球にまつわる技術エッセイだ。先史時代から現代までの球体の歴史や文化から説きおこし、前半では各種球体の測り方や作り方を説明する。図版が多く数式などはないので読みやすい。後半は球体の利用技術だ。たとえば天然ガス輸送は液化方式から、水の分子と混合させて球体ペレットにしたハイドレート方式になるという。輸送が容易になり、コストも下がるらしい。
身近なところではボールペンに使われる球体とインキの寿命設計なども取り扱っている。「原子力発電とボールバルブ」などというコラムもタイミング良く入っている。非常時の開閉スピードの速さやメンテナンス性で選ばれているというのだ。構造や作り方の説明にも余念がない。ほかにも地震時などに対応するガス漏れ防止装置や水素ガスセンサーなどにも球体は使われているということに驚いた。
ちなみに、わが国初の地震計は1873年に作られたのだが、それには4個の水晶玉が使われていたという。いっぽう、原子力の後釜に座るかもしれない太陽電池の分野でも球体が注目されているという。シリコンを球体にすることで太陽に対する指向性があげるのだ。
基本的な技術である球体こそが、さまざまな先端技術の鍵となっていることを教えてくれる本なのだが、偶然とはいえ原子力や地震、次世代エネルギーなど、大震災関連の話題が豊富なことに驚く。放射能や停電など受け身が続いているいまこそ、本書をガイドに技術の原点に戻ってみるのもよいかもしれない。