『ファミコンの驚くべき発想力 -限界を突破する技術に学べ-』

2011年5月3日 印刷向け表示
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限られたリソースでも高性能
任天堂から発売され大ヒットした「ファミリーコンピューター」、通称「ファミコン」は1983年に誕生した家庭用ゲーム機である。2011年の現在ゲーム世代は「プレステ」が一般的だが、私はまさにファミコン世代であり、小さい頃友達の家にカートリッジを持ち寄っては皆で遊んだ楽しい思い出がある。現在は世界中にゲームシェアが存在しているが、ファミコンはその基盤を築いてきたといえる。

この小さなコンピューターには緻密な設計思想があり、また驚くべき発想力でもって性能以上のゲームを生み出していた。本書ではその裏側のスペックからどう逸脱させゲームにしていたかのプログラミング技術が理解できる。プログラミングとはいえイラスト(ドット絵)を用意しての解説なので読み易い。

ファミコンの設計コンセプトは明解で、メモリ資源を絞りつつ実用的ゲームを開発する事だった。その反面、サウンドシステムやグラフィックボードは面白いゲームの為にこだわる必要があった。驚く事に、ファミコンは当時の10万近いPCよりも業務用ゲームを再生させる母体ができていたのだ。しかも¥14,800という最高のローコストという超実用新案件であった。

===ファミコンの主なスペック===
定価:14800円
CPU:8ビット、1.78Mhz
グラフィック:256×240ピクセル、52色中25色

電源:専用ACアダプター(HVC-002) DC10V 850mA

消費電力:約4W

メモリ:プログラムROM 32KB キャラクタROM32KB
    メインRAM 2KB ビデオRAM 2KB

スプライト:64個/画面、8個/ライン

背景数:1面

サウンド:PSG音源・・・矩形波2、三角波1、ノイズ1 計5個

映像出力:RF出力のみ 音声出力:モノラル

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「ドラゴンクエスト」などに代表されるRPGのパーティはなぜ4人か。ファミコンにはスプライトというキャラクターを表示させる機能があり、8×8ピクセルは1スプライト。4スプライトを正方形にすると1キャラクター分の大きさになる。ファミコンの再生限界は横水平に4キャラクター分しか表示できない。だから多くのゲームは横4キャラクターの制限をかける。だが「ドラゴンクエストⅣ」では5番目の「馬車」が登場した。画期的だったのは馬車を含む5キャラクターのうち実際4つを高速点滅させ5人に見せる技術であった。この点、後発の「ファイナルファンタジー」はフィールドマップ上に先頭のキャラクター1人のみ表示という巧みな設定としている。

ファミコンの再生色は52色のパレットの内、同時に再生できるのは25色だ。そのうち1キャラクターには4色。マリオの色を想像すると「赤」+「肌色」+「黄土色」あとの1色は透明色。これで背景色を表示させている。この4色表示のデータ量はわずか2ビット。ユーザが快適にプレイする為には高速化設計が最優先だった。解像度は低く、ピクセルが角張ってみえるデータだが、当時のTVへの接続方法はRF出力といって適度にぼやける。これが逆に幸いしてテレビでは色が少しにじんだ、味のある特有の色になった。

ROMにバックアップ機能が無い頃、「ドラゴンクエストⅡ」では復活のパスワードが長くならないよう入力数を減らす工夫があった。HP/MPのステイタスは再生時には最大に設定。力など強さは経験値から算出。攻撃力は力と武器の合計値、仲間の名前は自分の名前により変化、などである。これらの努力が無かったら、パスワードはさらに長い呪文になっていただろう。

開発者の試行錯誤がわかるので、思わず読みながら微笑んでしまう一冊だ。ナムコから発売された「ドルアーガの塔」は全60面の迷路マップだが、フロア毎に乱数でステージを生成する事で当時としては脅威的なステージが作れたなど、その発想をニヤニヤ読める人にはオススメの一冊。

決定版-HONZが選んだノンフィクション (単行本)
作者:成毛 眞
出版社:中央公論新社
発売日:2021-07-07
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