『TSUNAMI』は2005年に書かれた小説だ。東海・東南海地震が同時に発生し、20メートル以上の津波が沿岸を襲うという物語だ。物語のなかで津波は原発におよび、メルトダウンを引き起こし、ヨウ素131等価で数万テラベクレルの外部放出でレベル7のダメージが予想される。(単行本の374ページに詳述)気味が悪いほど現実は小説の予測を追いかける。小説では原発の当直長が、全身のDNAがずたずたになることを知りつつ、炉心に近づき最悪の事態を防ぐ。
実際にDNAがずたずたになるとどうなるかは、1999年の東海村JCO事故の記録である『朽ちて行った命』が凄まじい。DNAがなければ、赤血球どころか皮膚も胃壁も朽ちるのみで、全身の外側と内側から血液も水分も流れ出つづける。確実に死に至るのだ。にもかかわらず、医師たちは大量の輸血をして被害者の延命をはかる。放射線直接被曝の怖さよりも、患者をただただ苦しめる延命の意味を考えさせられる本でもある。この大震災で多く人に頼りにされた東大の放射線医学専門家もこのチームに属していたはずだ。
『原発と地震』は2007年の震度7によって引き起こされた柏崎刈羽原発事故の、新潟日報の記者たちによる記録だ。当時の社長である勝俣氏や副社長の清水氏も登場する。目次からいくつか見出しを抜き出してみよう。「電力マネー特需」「風評被害増幅」「消えた議事録」「続く密室体質」「ミス発覚」など、まるでここ1か月の記事を見るようだ。本書の最後に3人にインタビューしているのだが、登場するのは新潟県知事に石原都知事と斑目東大教授。ほかに『新リア王』で活断層を知りつつ原発を作り続けた1970年代以降の経済産業省を描いた高村薫さんも登場する。