表紙のイラストは、ゴルフ本を読んでいる男性が“スイングを我慢してはいるが、身体が微妙に揺れている”図である。
本屋が好きな人なら、この一冊は終始笑えて楽しめる。あるあるネタとは、日常生活で身の回りの些細なことを挙げ、読む人に共感を得て笑いを誘う技術である。古くは枕草子もこの形式を採用し原稿を書いていた。書店員からすればゴルフ姿のおじさんは話のネタであり、さらに「本を持つ手がグリップの形になっている」など他の書店員から、たたみかけるように報告例があがってくる。
著者は実際に東京郊外で働く書店員歴17年の店長だ。ツイッターで「今日こんなことがあったんだけど」と、日々あるある話をつぶやいていた。すると全国の書店員が大きく首をうなずかせ同調し、こぞって笑いや苦労ネタをアップしてきた。たちまち400を超える数となり、アーカイブされ出版の流れとなったらしい。本書最大の魅力は、純度の高いネタに絞り掲載されている点だ。
あるあるレベル初級編として
おつりは受け取って、買った本を忘れる
あるある!私も忘れるし、実際にビジネスマン(なぜかできる風)が受け取りを忘れている光景を見た事がある。
あるあるレベル中級(意外に困る質問編)では、
少年が修行を積んで敵を倒す名作マンガ、ありますか?
遠いよ!どうやらお父さんが息子のために探しているらしいが、書店員が「ド○ゴンボール」ですか?と聞いてみると「それではないんだよ!」と即答。その他にも「最後に泣けるスポーツマンガ」や、「絵がかわいい少女マンガ」などと、親の質問というのはいつの時代もゴールが遠いようだ。というかノーヒントに近いんでないか。シュール感漂う絶妙なタッチのイラストも添えているので、電車内で読む際にはニヤけて不審者に間違われないよう、ご注意願いたい。
このように書店員にとってお客様の注文はハードルが高いのである。レジの際、会計済の本をビニールに入れテープまで貼ってから、「ビニールはいらないです」と言われたり、中には「カバーも帯も全部捨ててください!」というケースもあるようだ。そんなに表紙がイマイチなのだろうか。しかも書店員の仕事はお客様対応だけではない。レジでの接客、新刊の品出し、返本まとめ、取次への注文、ポップ制作など多岐にわたる。ぱっと見の印象とは違い、かなりの体育会系なのだ。
そんな中、お客様にこんな感想を持つ書店員も
整理術や断捨離の本をまとめ買いする女性客をみると、
「この人は片づけられないな」と思う
そうだよね。これって占い師に「あなたは悩みがありますね?」と言われ、「え、なんで?当たってます」と言うくらいわかり易いかも。その他にも体型はガリガリなのに、ダイエット本を大量に買いまくる方に対しても、心の中では「大丈夫ですか!?」と、売上はさておき書店員は感じているらしい。
しかし、そんなお客様にも書店員はナイスプレーを連発していく。
お客様「トウノケイゴの本、ありますか?」
書店員「はい、トウノケイゴさんの本はこちらです!」
気分を損ねないよう、作家名の読み方を間違えているお客様の言葉もそのまま復唱し案内するのだ。ホテルのようにエレガントなサービスではないか。その他、カバーの背に描かれた登場人物だけで漫画の何巻かわかるなど、ファインプレーは続いていく。さらには休日でも他店の本屋に入り、習性的に棚の乱れが気になり棚整理をしてしまうそうだ。なんと本への愛情があふれていることか。しかし、やりすぎるケースもあるらしく「○巻がありませんでしたよ」と他店の書店員につい報告してしまうのはご愛敬。
その他、事務所でランチ中、仕切りの向こうから万引き犯の取調べが聞こえてくる、など冷めたランチがさらに冷たくなりそうな話も掲載されている。万引き関係のネタも多く掲載されているが、本一冊が万引きされると書店はコストを回収するのに、同じ本を20冊売らないといけない。
実は書店員の時給は、日本では最低賃金ランクなのだ。加えて、キラキラネームの作家名が読めず戸惑ったり、立ち読みしていた本に向けてクシャミするおじさんを見て泣きたくなる事もあるらしいが、そんな様子は全く見せない。お客様からは「ここが汚れているので取りかえたい」と指をさされるが、肉眼では判別できないケースも多数あり。児童書コーナーにいたっては1時間に1回は巡回しないと、目もあてられないほど荒れてしまう。そんなドタバタの最中に、レジでバーコードがなかなか読み取れずにいると、「じゃあココは?」と自分の頭をさしてくる髪の薄い客もいるらしい。
今日も読みたい本をお客様に届けるため、書店員は奮闘している。
笑いと愛が満載な、つい応援したくなる一冊だ。
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別に吹奏楽部ではないが、他のクラブにはない不思議な世界を垣間見れるので推薦。絶対数が少ない男子部員はモテるらしい。
別に野球部でもないが、逆に部活内が想像つかないので推挙。うっかりユニフォームの背番号で縫い方を失敗すると、相手チームに「背番号の位置が低い奴」と呼ばれる。