豪華なインタビュー集である。何が豪華かというと、本書で取り上げられる6名のインタビュイー達の顔ぶれだ。その名前を見るだけでもわくわくしてくる。
・『銃・病原菌・鉄』の進化生物学者、ジャレド・ダイアモンド
・『生成文法の企て』の言語哲学者、ノーム・チョムスキー
・『妻を帽子とまちがえた男』の神経学者、オリバー・サックス
・『心の社会』のコンピュータ科学者、マービン・ミンスキー
・アカマイ・テクノロジー社の共同設立者、トム・レイトン
・『二重らせん』の分子生物学者、ジェームズ・ワトソン
本書は、「ただ有名な人を集めただけ」のインタビュー集以上の仕上がりとなっている。それは、インタビューアー兼編者の吉成真由美氏が、彼らの著作の意図をしっかりと踏まえたうえで、その現代的意義や解釈の仕方を深堀って質問しているからだ。インタビュイー達の著作を読んだことがなくても、本書を読めば、これまで彼らがどのような主張をしてきたか、現代をどのように読み解いているかが理解できる。本書は、新刊紹介に特化したHONZでは取り上げられることのない、既に古典としての地位を築きつつある彼らの本のブックガイドとしても楽しめる。
各人の主張の探求に加えて、「インターネット社会」、「科学と宗教」、「これからの教育のあり方」、「若者たちへの推薦図書」、のように皆に共通している質問もある。これらの質問からは、彼らの考えの重なる部分、異なる部分が際立って浮かびあがってくる。例えば、宗教や神のとらえ方はこの6人でほとんど同じだが、推薦図書についてはその答え方からして統一感のかけらもない。
彼らに最も共通しているのは、70代、80代になっても子供のように好奇心を輝かせ続けている点だろう。次作の構想や現在取り組んでいるテーマについて語っている彼らは、なんとも楽しそうで、隠居という言葉とは程遠い。人工知能分野を開拓した85歳のミンスキーは福島原発に無人ロボットを送り込めなかったロボット研究の進むべき方向性を語り、75歳のダイヤモンドは次回作のために世界中の伝統的部族の研究を続け、84歳のワトソンは今でもロザリンド・フランクリンに手厳しい。「老害」とは程遠い、知の巨人たちの刺激に触れることのできる一冊である。