本書はまだ店頭では販売されていない。著者本人から刷り上がったばかり本を直接いただいたのだ。著者は「週刊朝日」の現役編集者だ。ホリエモンとボクの連載も担当している。昨日3人での打ち合わせの最後に本書を取り出したのである。そして「じつはボク2年前に白血病で骨髄移植を受けたんですよ。この本はその記録です」と言ったのだ。2人は驚愕して思わず顔を見合わせた。
本書によると、日本では年間7800人が白血病で亡くなっている。発病率は10万人に5~6人である。いったん発病すると、抗がん剤治療をしても5年後の無病生存率は30%だ。生活習慣病ではないし、家系にも関係はなさそうだ。著者は「はずれ」のくじを引いてしまったようなものなのだという。
生還した有名人は渡辺謙と市川団十郎がいる。夏目雅子と本田美奈子は戻ることができなかった。骨髄移植で治癒すると考えるのは尚早だ。5年後の無病生存率は60%、感染などで1年以内に20%~30%が亡くなるという。しかし、その治療による苦痛はじつに壮絶であり、著者によると「死んでもいいからやりたくない!」というほどのものなのだ。
当時、著者は朝日新聞の経済記者だった。同時期に朝日新聞はAERAのカメラマンを白血病で失っている。本書は『無菌室ふたりぽっち』としているのは、そのカメラマンのブログも引用しつつ、遺族への取材もおこなっているからだ。じつは「ふたりぽっち」という言葉にはもう1人の存在も重さねあわせているのだが、それは本書を読んでいただくしかない。
本書は闘病記である。読みすすむにつれ辛くなる。著者の苦痛と絶望感は想像するだけでも恐ろしい。骨髄移植準備のための抗がん剤と放射線による寛解治療の様子などは鳥肌が立つ。それでも読者を最後まで導く力がある。文章がリリカルで透明感があるからだ。仕事仲間を無暗にほめることには抵抗があるのだが、じつに自然で素晴らしい文である。本ブログではめったにしない引用をしてみよう。
「ここまでかなと思った。それでも、いいかな。僕はここで一度、生きることをあきらめた。」
「高橋先生がやってきて、弟の骨髄で移植すると告げられた夜、僕は笑った。大きな声でわんわんわんわん笑った。笑っても笑っても涙が止まらなかった。」
「オフィスを出て、近くのカプセルホテルに飛び込んだ。(中略)死ぬと決まったわけじゃないのに。大声で泣いた。ごめんな、ママ、珠希、そして生まれてくるお腹の赤ちゃん。パパ、死ぬかもしれないよ。」
著者は同病の患者にすこしでも闘う力を与えられたらと、2008年10月に廃刊になった「論座」の2008年3月号から5月号までの短期連載記事を書いた。本書はその書籍化である。ちなみにお腹の中にいた赤ちゃんは男の子で無事に生まれ「薫」ちゃんと名づけられた。奥さんは「紀子」さんという。