採点:★★★★☆
「起業」「ベンチャー」に興味のある人はもちろん、大企業で働くビジネスマンにもおススメ。
人気メルマガisologueの磯崎氏による、「起業」に必要なファイナンス知識の全体図。私のように理系でちゃんと会計を学んでいない人にも非常に分かり易い。著者は必要のない細部を省いて全体像を伝えるのが非常に上手い!メルマガもおススメ。
起業のファイナンス ベンチャーにとって一番大切なこと (2010/09/30) 磯崎 哲也 |
■あらすじ
そもそも「ベンチャー」とは何なのか?その存在意義を明確にし、そのために必要なファイナンスの全体像を解説する。メインテーマは当然ファイナンスなのだが、会社を始めるために必要な事業計画立案方法、人材の集め方から必要な心構えまで幅広くカバーしている。当然具体的なアドバイスも豊富であり、ストックオプションはどの時期にどの程度誰に発行すればよいのか、増資は誰からどれくらい受ければ良いのか、を考える指針を与えてくれる一冊。特に、P.65の日本の資金循環マンダラは分かり易い!!
■感想
「こういう資本政策を取ればビジネスが上手く行く」という類のものはこの世に存在しないが、「こういう下手な資本政策を取ると、イケてるビジネスも上手く回らなくなる」ということは多分にしてあるので、本書に書かれている知識はベンチャーを始めるための運転免許証のようなものかもしれない。大前研一や成毛眞が言うように、21世紀のビジネスマンの3種の神器(IT、英語、ファイナンス)の一つを磨くための入門書ともいえる。
主にシリコンバレーと比較しての文脈に多い、「日本にはエンジェルがいない」「起業家を応援する風土がない」という意見に著者は異を唱える。(この辺りは渡辺千賀さんも繰り返し主張している)
日本に足りないのはアニマル・スピリットに溢れた企業家率いる「イケてる」ベンチャーなのだ。まぁ、たしかにこれだけ金がジャブジャブあまってるんだから、本当に「イケてる」ベンチャーなら投資家が放っておかないだろう。
将来成功が見込めそうなベンチャー企業には資金を出したい人が群れをなして待っています。だから資金調達したいベンチャー企業の人が「お金が集まらない」「ビジネスを理解してくれない」「国はもっとベンチャー企業を振興すべきだ」などと文句を言っているとしたら、そのベンチャー企業がイケてない証拠かもしれません。
日本の家計資産構成のうち預金・現金率がアメリカに比べて高い(日:54.9%、米:14.2)ことは広く知られていると思うが、その影響を著者は以下のように説明する。
アメリカでは、良くも悪くも、経済が大きく変動する際のリスクは、銀行ではなく家計を直撃します。
しかし、間に国会のような意思決定の遅い帰還を挟んでいないため、この衝撃の余波は、日本と比べた場合に相対的に短期間で収束しうる構造になっています。
なるほど、日本ではバブル以降「20年」が失われたが、アメリカは今回の危機から立ち直れるだろうか。失業率の上昇の仕方は確かにかなり急激だった。解雇のし易さ以外にもこのようなことが影響しているのだろう。
isologueを購読し始めて3ヶ月くらいしか経っていないが、以前よりもB/SやP/Lを見るのが面白くなったように感じる。まだまだ知識不足で本書を十分に理解できたとはとてもいえないが、全体像を教えてくれるので、次にどの分野を勉強すれば良いか、自分が何を分かっていないかが明確になる。
もっともっとファイナンスについて知りたいと思わせてくれた。