1789年7月14日のバスチーユ監獄襲撃からフランス革命が始まった。この2年前からフランスの気候は不順で、穀物の収穫量は平年の3分の2になり、小麦価格は2倍に高騰していたのである。
5年後の1794年も天候は最悪であり、フランスでは大規模な食糧暴動が発生した。この年7月にジャコバン党のロベスピエールは刑場の露と消え、革命は転換点を迎えたのだ。
フランス革命は民法やメートル法など、のちの世界に思想や制度で多大な影響をあたえたことは誰でも知っている。しかし、そのきっかけのひとつが気候であったことはあまり知られていない。
E・ル=ロワ=ラデュリ著『気候と人間の歴史・入門』著者は本書で中世以降現代までのヨーロッパにおける、気候が人間社会に与えた影響を語る。まさにアナール派歴史学の入門書だ。
アナール派ではないのだが、その特徴のひとつである、長期的な経済史を、よりグローバルな視点で取り扱っているのがウィリアム・バーンスタイン著『華麗なる交易』だ。
ファイナンスの理論家でもある著者は本書において、グローバリゼーションは海運コンテナやインターネットがもたらした目新しい風潮ではなく、有史以前から連綿と続けられてきたのだと主張する。
5000年前のシュメールのおける金属貿易から、シアトルにおけるWTOの会議にいたるまで、500ページを費やして歴史的ディテールを積み重ねたうえでひとつの結論を導き出す。
人間は欲望のままに、交易をしつづけ、全体としては人類に恩恵をもたし続けたが、いつの時代にも敗北者を生み出したというのだ。
しかし、関税障壁などを設けて産業を停滞させ、知的・文化的資本や隣国への理解などを妨げるよりは、自由貿易の結果として被害をこうむった労働者を保護するほうがはるかに得策だと結論づける。
この結論の是非はともかく。優れたビジネスマンは歴史から戦略や政策を学ぶという好例であろう。
さらに長い歴史を取り扱っているがグレゴリー・コクラン、ヘンリー・ハーペンディング著『1万年の進化爆発』だ。タイトルを見るかぎり、歴史というよりも生物学のような気がするのだが、副題は「文明が進化を加速した」である。
2人の著者はユタ大学で人類学の教鞭をとっている学者だ。歴史学的にも科学的にも、他に類をみない本であり、今後の学際的歴史研究の方向を示している可能性がある。
この1万年間の文明の発達により人口が爆発的に増えた結果として、進化のスピードは驚くほど速くなったという。さらに、具体的な例として、西ヨーロッパ系ユダヤ人の知能の高さと遺伝病を取り上げる。
非常に微妙な話題ではあるのだが、全世界がひとつの経済システム下にある現在、各地域の人間や文明を理解するためにもこのような歴史的視点が必要になってくることを実感する本だ。
歴史では坂本龍馬などのヒーローに目が向きがちだ。しかし、気候、交易、進化と相関する壮大な人類史こそ、この暑い夏にお勧めである。