岩波書店やみすず書房など8社で行っている「書物復権」企画の1冊だ。奥付によると、翻訳版の第1刷は1959年4月15日、第2刷は2010年5月27日である。あくまでも第2刷であって、第2版ではない。したがって、今回付け加えられた文章などはない。あとがきも訳者の朝吹登水子による1959年3月24日付けのものである。そして本文はもちろん活字だ。
文字だけの本文は68ページ、その後ろに本文に対応した114枚の写真が追うという構成だ。いまではパリに憧れることは、じつにノスタルジックな心象だ。しかし、本書には憧れるべきパリがある。登場するのはジュリエット・グレコ、ジジ・ジャンメール、バルバラ・ラージェやムーランルージュの踊り子たち。それに市井の働く女たち、娼婦、尼さんなどパリに住む女たちである。
この翻訳本のタイトルは『パリの女たち』ではなく『パリの女』である。原題は『Femmes de Paris』。1950年代のパリに住む女たちを活写したというよりも、パリという街の属性はじつは女なのだ、というほどの意味で翻訳本のタイトルのほうがそれらしい。粋である。
序章でアンドレ・モーロアはバルザックのテキストを引用しいている。「スカートをまつわらせながら足を前に出す時の、あのまことにつつましやかできちっとした様子をご覧なさい。それは道行く男に、欲望をまじえた憧憬心を起こさせる・・・歩き方の天才はパリの女だ。」そしてモーロアは序章をこう結ぶ「パリという都は、女を理解しようとする男たちのいる都であり、理解される価値を持った女たちがいる都なのだ。」日本にはもうこんな時代はこないかもしれない。
じつはボクはフランスに1回しか行ったことがない。それもカンヌに3泊しただけである。もちろん1950年代に活躍したフランス人女優の直接的な記憶はない。過去にパリやフランスに憧れることはなかったのである。しかし、ここに至ってどこかの異時空に憧れでも持たないと視野狭窄を起こしそうで怖くなってきたのだ。そこで選んだのが19世紀から1960年代までのパリというわけだ。
ところで、もっとも好きな映画はアランドロンの『サムライ』である。全編ほとんど台詞はない。パリとジタンとシトロエンと小鳥と殺し屋。驚くことにこのDVDは絶版であるらしい。DVDの復刊はあるのだろうか。