採点:★★★★☆
床屋政談好きにはたまらない一冊。パレート最適、乗数効果ってなんだっけという人にもおススメ。
本書のタイトルと表紙はミスリーディングである。サッチャーが表紙でこのタイトルだと、イギリスでのサッチャー政権の政策分析かと思ってしまった。内容は全然違って、経済学でコンセンサスが得られている内容から政策(後半は民主党のものに焦点を当てている)の妥当性を検証する。経済音痴の自分でもさくさく読めて、非常に分かり易く、面白い。積読になっているマンキューにもう一度挑戦しようかな。
政権交代の経済学 (2010/05/20) 小峰 隆夫 |
大学院まで理系だったが、下手の横好きで経済学の本はちょこちょこ読んでいる。今まで読んだ本は専門用語が多く理解できない部分もちょいちょいあった。今まで経済本を敬遠していた人もこの本から入れば、きっと楽しめる。
様々な政策を分析していく本書だが、「民主主義が持つ最大の欠点」についても簡潔で分かり易い。
現在の制度の下では、将来の世代は政策決定に参画することができません。仮に将来の世代が今回の投票に参加したとしたら、「自分たちの世代に負担を先送りするような政策には反対だ」と言うでしょう。
城繁之氏も盛んにこれからは世代間闘争が激しくなると主張しているが、その傾向は加速こそすれ、収まることはないだろう。
シルバー民主主義ついては、第18章で詳しく解説されているが、日本の歪んだ人口ピラミッドでは、20歳以下の意見はもちろん、20~30代の意見を反映させるインセンティブは政治家には働かない。解決策として、子供がいる人に余分に票を与える、世代別選挙区をつくる、といったことが挙げられているが、政治家がすっかり若返ったとしても実現不可能だろう。これらよりも、一票の格差を解消することが先決だとは思うが、その実現性も・・・
他にも分かったようでわかっていなかった政策の意味や欠点をいろいろ挙げていて興味深い。
第13章「最低賃金引下げは失業者を増やす?」では、経済学的思考のフレームワークとして、「衝撃」⇒「転嫁」⇒「帰着」が挙げられており、かなり汎用性の高いフレームワークだ。労働法学者と労働経済学者との対談を受けての清家慶応大学教授のコメント
「労働法学者が、困っている労働者を助けるためにはいろいろな規制や政策を行う必要があるという主張をされるのに対して、労働経済学者は、もちろん困っている労働者を何とかしなければいけないという点についてはかなり同調しながら、しかし、労働法学者がいうような規制や政策を進めれば進めるほど、かえって労働者には気の毒な結果となるのではないか、というコメントが多かった気がする」
法学では、過去の判例に対する解釈が事実よりも重視されるのでイノベーションが起こり難いと聞いたことがあるが、経済学は散々文句を言われながらもアップデートを続けているので、このような差がついたのだろうか?レントシーキングに一生懸命で競争を忌避していれば、いくら「賢い人」の集団でも衰えざるをえないのだろう。
しかし疑問なのが、この本に書いてあるような意見をテレビから殆ど聞いたことがない。世間一般の人には森永卓郎や勝間和代が経済学者なのだろう。大阪大学の大竹文雄教授が週刊朝日の自身のインタビューへのタイトルのつけ方にブログ(大竹氏のブログ)で怒っておられたが、下手にテレビや雑誌に出てもメリットがないのだろう。そうして、視聴者のリテラシーが下がって、より耳障りの言う人が重宝され、ますます本当の専門家はマスメディアから離れていく悪循環。
そういう意味ではWebメディアで経済学者が熱心に情報発信していることにはある程度可能性を感じる。