トイレ送りになる予定だった本書はお風呂に配置転換された。そのため読み終えるのに1ヶ月もかかってしまった。ヌルめのお湯にゆっくり浸かって1話づつ読み切るのが心地よかったのだ。標準的な新書に医学にまつわる驚きの物語が25話も詰まっている。図版も豊富で、お得以外のなにものでもない。これで740円は安すぎだ。
第1話は体温計についてだ。人類がはじめて体温測定を医学に応用したのは19世紀になってからだという。ドイツの医師が25000人の患者に100万回も体温測定をして有用性を立証したのだという。その時の水銀体温計の長さは30センチもあり、測定に20分かかったのだという。
最後の第25話は病原菌を飲んで自説を証明した研究者の物語。はるか昔の話と思いきや、1983年のことだ。この研究者は2005年にノーベル賞を受賞した。どんな病原菌を飲んだのかは本書を買ってからのお楽しみにしておこう。
他にもいくつかの章の見出しだけ紹介しておく。ちなみにすべての章に「医学マメ知識」というコラムがついている。
「若旦那の趣味が昴じて-顕微鏡」電子顕微鏡の現在
「深夜の極秘人体実験-心臓カテーテル検査」カテーテル・アブレーション
「ビートルズが支えた最新技術-CT」最新CTのスペック
「風邪ひきイタチに助けられ-インフルエンザ・ワクチン」遺体標本とウイルス
「靴墨の缶で作った命の機会-心臓ペースメーカー」現在のペースメーカー
著者は現役の放射線科の医師である。専門の医史学者でないのが幸いしてか、日本で初めてともいえる一般向けの医史本ができあがった。付録の年表、文献リスト、図版出典リストも丁寧でありがたい。著者も素晴らしいが、編集者にも拍手を送りたい。本年4冊目の私的TOP10候補本である。