著者のお2人には大変失礼なのだが、本書こそトイレにおいておきたい本はない。2008年から産経新聞に連載されていた往復書簡をまとめたものだ。見開き1ページに1通の書簡が収められている。本書を一気に読むことをおすすめしない。それゆえにトイレにぴったりの本になのだ。
『パラサイト・イヴ』で鮮烈にデビューした瀬名秀明と、『星新一』で多くの賞をとった最相葉月のコンビだから科学・技術・SF好きにとって楽しくないわけがない。あらゆる話題が書簡形式であるがゆえに、柔らかい言葉で語られる。
黄砂、レッドスプライト、マイクロスラスター、シャベロンなど魅力的な先端科学が語られる日もある。『おさるのジョージ』のH・A・レイや『ピーターラビットのおはなし』を語る日もある。瀬名が習得中の飛行機操縦と最相が見に行った自転車レースの日もある。
往復であるからテーマがゆっくりと変化していく。過ぎていく時間を読むという不思議な感覚を味わえる。デザイン・装丁ともに素晴らしい。帯をつけたままにしておいたほうが美しい本だ。ただし「未来を周遊するブックガイド」はタイトルが誇大である。「書簡で引用された本」とするべきだ。そのほうが本書の控えめな美しさにお似合いだからだ。
版元は「自由が丘のほがらか出版社」ことミシマ社だ。サイトがかなり面白い。営業チームが「汗と涙のじみち日記」を付けている「拝啓、母上殿。僕頑張ってます」がタイトルだ。あはは、笑える。今後が期待できる出版社だ。