文庫を一回り大きくし、紙質をザラ紙にしたような装丁の本だ。出版社は『週刊朝日』で話題となった朝日新聞出版社ではなく朝日出版社。案外知られていないのだが、朝日出版社は朝日新聞とは一切関係がない。社名は創業者が岡山朝日高校の出身者であることに由来するという。三菱鉛筆が三菱グループとなんら関係ないのと同様である。橋下市長が逆上、混同してツイッターで朝日出版社を名指しして批判していたが、とんだとばっちりというものだ。損害賠償請求訴訟でも起こして知名度を上げるということもできたはずだが、朝日出版社はツイッターで当社は違いますと告知しただけだった。じつに奥ゆかしいのである。朝日出版社は1975年に思想月刊誌『エピステーメー』を発行していたし、1990年代には日本初のヘアヌード写真集、樋口可南子の『water fruit』や宮沢りえの『Santa Fe』を出版している。
さて、本書は『邪悪な虫』と姉妹本として同時に出版された。『邪悪な虫』など気持ち悪くて触れたくもないが、植物なら大丈夫。どんなに邪悪なんだろうとパラパラとメージをめくってみよう。最初に登場するのは「トリカブト」。この項目では「クラーレ」などの矢毒植物も取り上げられている。都会では邪悪な植物というよりも邪悪な人々が使う植物というべきかもしれない。
「コカノキ」はもちろんコカインを生産する植物だ。大昔にはコカ・コーラには微量のコカインが入っていたが、いまではコカインを抜いたコカノキの抽出物が入っているだけだ。それでも異様な感じがする。ちなみに「ペプノキ」という植物はない。ほかにも「ベラドンナ」、「麦角」、「大麻」、「ケシ」、「マンドレイク」など、本書では麻薬様植物のほとんどがカバーされている。
麻薬様ではない植物として「クズ」は異質だ。19世紀後半に日本からアメリカに持ち込まれたクズは土壌流出を食い止める植物として珍重された。しかし、いまでは全米で3万平方キロ近くがクズで覆われているという。クズは除草の対象になっているというのだ。同様に繁殖し過ぎて困る植物として水生の「ホテイアオイ」がある。
「ソテツ」の種子はペットが2,3粒食べただけでも死に至る可能性があるという。さらに、ソテツは筋萎縮性側索硬化症(ALS)の変異型の原因にもなりうるという。ソテツを食べてはいけないのだ。ヒッチコックの恐怖映画「鳥」ではカモメたちが異常行動をするのだが、その原因はエサのセグロイワシを汚染した有毒藻類の異常発生だったらしい。それが判明したのは映画から40年以上あとだったという。
というようなトリビアが図版とともに延々と続くわけで、このタイプの本が好きな人にとってはじつにヤバいわけである。とりわけトイレに置いておいて、1項目ずつ読んでみようという趣にはぴったりとあてはまるデサインだ。朝日出版社はそこを間違いなくピンポイントで狙ってきたに違いない。今年のトイレ本大賞の候補として推薦しておく次第。