いうまでもなく、斉藤孝の『声に出して読みたい日本語』のもじりだ。だから、必ずしも「声に出して笑える日本語」が収録されているわけではない。むしろ、現代日本語論のようなものに仕上がっている。「のようなもの」としたのは、やはり大笑いできるところもあるからだ。ビミョーだ。
王監督がハンク・アーロンを抜く756号ホームランを打ったときの解説者が「これは立派なカネジトウです」と叫んだという。もちろん「キインジトー」の誤りだが、本書はこのようなプロなのに真っ当な日本語を話せない人々を嗤う。深夜の生討論番組で女優が「カラトツ」ですがと、会話に割り込んだという。そりゃまさに「トートツ」だ。
本書はまた落語界の裏話も豊富だ。先代文楽、先代正蔵、先代小さん、円生などの裏話はその口調が耳に浮かんで、たいそう面白い。このあたりは今の若い人が読んでも、ダメかもしれないが、円生が「前方は三球照代という夫婦漫才で、たまには一緒に寝たりなんかするという、じつにどうもけしからんもので・・・てへへ」なんてのは、たまりませんなあ。
同僚落語家のバカバカしい日常風景も絶品だ。志ん駒とヨイショの話をしているときに、小学生が通りかかった。志ん駒すかさずしゃがみ込み、揉み手をしながら「おや、坊ちゃん、どこ行くの。今オジさんが面白い話をするから、そのソフトクリームをひとなめさせておくれよ」ときた。あははは。
本の仕立ては1篇で2枚ほどのエッセイ集だから、短時間で読めると思うと、意外にもそうではない。どこにシャレがかくされているのかわからないので、じっくりと読むことになる。大笑いしたのは「上がり一丁」というエッセイだ。オチまでの文章が抜群にうまい。少なくとも昨今の落語ブームに乗って書かれた本ではない。
将棋界の先崎学など、それぞれの業界で筆の立つひとは必ずいるものだと関心する。ちなみに先崎学はほとんどの落語家よりも、はるかに落語家的なエピソードに事欠かない人物だ。将棋を知らない人は、まずはwikiでチェックしてみるべきだ。一気にファンになるはずだ。