久しぶりに「芸術新潮」を買った。ここ1年の特集は「手塚治虫」「運慶」「阿修羅」「トーヴェ・ヤンソン」=ムーミンの作家「トミ・ウンゲラー」=絵本作家とかだったから、ぜんぜん興味を持てなかった。今月号は東京都美術館で開催中の「トリノ・エジプト展」にちなんで「エジプト美術」特集だ。エジプト美術を所蔵する世界のミュージアムを旅するという企画になっている。
カイロ・エジプト美術館、トリノ・エジプト博物館、大英博物館、ルーヴル美術館、ベルリン国立エジプト博物館、メトロポリタン美術館の所蔵品を紹介している。早稲田エジプト学研究所の近藤所長の会話形式の解説が簡潔にして軽快に語られていて大変に良い。とりわけカイロ博物館の聞き手との対話が面白い。このパートの原稿おこしの担当者が違うのかもしれない。
じつは本書にあるほとんどの収蔵品を間近で見たことがある。しかし、ベルリンにはまだ行ったことがないので、垂涎の「着色石灰岩のネフェルティティ胸像」は見たことがない。ベルリンでは10月に新博物館がリニューアルオープンする。これで東西ドイツにちりぢりになっていたベルリン・コレクションがやっと1ヶ所に集まるのだという。こりゃ何をおいても行かなければならないだろう。ついでにムンスターのパンツァーミュージアムなんかに寄ったりはしない、と思う。
話はもどって、その「着色石灰岩のネフェルティティ胸像」は1912年にエジプトから略奪同然でドイツへと運ばれたものだ。近年になってエジプトは里帰りさせてほしいと要請してきているのだが、ドイツは保全状態を理由に断っている。
絶対にエジプトに返してはいけないと思う。地球上で最悪の空気汚染都市であるカイロにあって、カイロ博物館はフィルターなしで常換気されているのだ。つまり、所蔵品は毒ガスにさらされている。本書にも写真が掲載されている絵画「マイドゥームの雁」などもこの空気のなかでは数百年ももたないかもしれない。これは4500年前に描かれたもので、カイロ博物館ではテキトーに展示されていて、エジプト人の子供が触ったりしているのだ。
ともかくこの号の1400円はお買い得。