ワイン作りは人類にとって最古の仕事の一つである。すでに紀元前6000年ころのメソポタミアで計画的に作られていたといわれる。いっぽうでワインは壮大なベンチャービジネスでもある。1960年台後半にロバート・モンダビが高級ワインを作り始めたことで、いまではワイナリーはカリフォルニアの代表的な産業となっている。お洒落で儲かるビジネスになったのだ。
もちろんワイン作りは農業を基礎としている。ワインに向いたブドウ作りがなによりも重要だからだ。本書の著者は自家のブドウ畑をもつ業者を「ワイン醸造家」、濃縮ブドウ果汁を仕入れて発酵だけをする業者を「ワイン屋」と呼んで区別するべきだという。まさにそのとおりだ。
出来上がったワインを海外から買い入れ、瓶詰めをして「国産」として出荷しているメーカーがいる。中国のニセモノ工場の話ではない、日本で合法として行われていることなのだ。その正反対に位置するのが著者のワイナリー「カーブドッチ」だ。
それでは著者は家内制手工業のように細々とでも、理想を追いながら、昔ながらの手法でワインを作っているのかと思うと、それは大きな間違いである。最新の技術をもって科学的に栽培し、醸造する。長期的視点にたって戦略的に大きな資金を集め、理想の設備投資をする。ご本人の自然に対する立場は「管理された混沌」である。
そもそも万人受けしないワイナリーを目指す。1割の理解者がいれば十分であり、その1割の方の期待を裏切らないことが重要だという。効率や便利さを求めない個性の強い存在でありたいという。スタッフとお客様との関係が気持ち的にフィフティ・フィフティであるのが理想だという。
本書を読みながら、著者と一体化してしまった。ボクの理想と生き方に完全に一致する。2000年に45才で外資系企業をやめたときに、この著者と知り合いになっていたら間違いなく著者の隣でワインを作っていただろう。著者によれば自身の経験から44才でのスタートがぎりぎりだったというのだ。本当に残念だ。
本書を読んで、明日にでもこのワイナリーがある新潟に行ってみたいのだが、来週からは株主総会シーズンで忙しい。しかたがないのでカーブドッチワイン6本セット木箱入りを30分前にメールオーダーしてみた。けっしてアルコール依存症ではないのだが、朝からワインのことを考えてワクワクしている。
本書は凡百のベンチャービジネス成功物語とは比較にならない味わいのあるビジネス書だ。