「知の再発見双書」の最新刊だ。この双書はフランスのガリマール出版社が1986年から出版を開始した「Gallimard’s Decouvertes」の一部を翻訳したものである。本国では530を超えるタイトルが出版されているのだが、創元社が翻訳したのはそのうち本書をもって144冊目だ。
ガリマール出版社は老舗出版社であり、フランス版の文藝春秋というところであろう。文藝春秋は菊池寛によって創業されたのだが、ガリマール出版社はアンドレ・ジッドがガストン・ガリマールに協力する形で創立された。
当然のことながら、原文はフランス語でありフランス人向きに書かれている。そのため、同じ歴史的事実についてであっても、英米や日本とは異なる角度からの見方があってじつに面白いのだ。少し長くなるが本書から抜きだしてみよう。アメリカ政治について概略した本書冒頭からだ。
「たとえばフランスは過去200年に、5つの共和政、ふたつの帝政、王政復古期、革命期、占領期を経験している。そして21世紀に入ったいま、人びとは第5共和政の衰退と、来るべき第6共和政に思いをめぐらせている。(中略)ところが対照的にアメリカでは合衆国憲法制定以降、南北戦争、1929年の大恐慌、第2次世界大戦、冷戦、ウォーターゲート事件、9・11の同時多発テロをいった大事件が、政治体制になんの変化もおよぼさなかった。」
このいち文で一気に両国の政治体制について学んでしまえる感がある。日本人にとって第三者であるフランスとの対比があることで、よりアメリカ政治の実像が見えてくるのだ。さらに本書において著者は、アメリカ大統領は「(閣僚や判事)などの任命権をもつ大統領が(議会や裁判所にたいして)圧倒的な優位に立っているのである」という。
また、大統領選挙制度の「選挙人制は、西ヨーロッパの民主主義国にはそれに類似する制度がない。そして間違いなく(略)もっとも疑問視される時代遅れのものだといえる」とするのだ。日本人が恐る恐るアメリカのここが変だなと感じていることを、フランスやヨーロッパの常識に照らし合わせて確認することができる。
この双書の特徴は1ページに1枚以上の写真や図版が使われていることだ。『アメリカ大統領』などの現代物はともかく、『ヨーロッパ古城物語』や『オスマン帝国の栄光』などの歴史物では、日本の出版物ではお目にかかることができない、膨大なストックを持つヨーロッパならではの写真や図版が豊富に使われている。
写真と図版の配置は専門のデザイナーによるものであり、硬い内容であるにも関わらずセンスに溢れる。これだけはネットでは無理であろう。限られたサイズの紙面に配置されるからこその美がある。無限の広がりを持つことのできるネットでは表現できないと思うのだ。
ところで、この双書は古書店によっては写真が豊富であるためか評価が低いことがある。100均コーナーに置かれていることもある。『シルクロード』などは1992年版のためか、アマゾンの中古商品で78円だ。(残念ながら、6月18日8時15分現在で1冊のようです)この『シルクロード』もヨーロッパ視点なのでじつに面白い本にしあがっている。