著者はキャロウェイ社の技術トップである。ビッグバーサやヘブンウッドを開発した張本人である。キャロウェイ社とは世界最大のゴルフ用品メーカーであり、ビッグバーサやヘブンウッドとはキャロウェイを飛躍させたヒット商品のゴルフクラブである。
キャロウェイ社の設立は1981年。イリー・キャロウェイがその創業者だ。イリーは米国最大の繊維メーカーであるバーリントンの社長をつとめたあと、当時は誰も見向きもしなかった西海岸でのワイン製造で成功し、最後のビジネスとしてゴルフメーカーを設立した。
本書で初めて知ったのだがイリーはなんとボビー・ジョーンズのいとこなのだ。ボビージョーンズは球聖と呼ばれるゴルフ史上最高のプレーヤーにして、「マスターズ・トーナメント」の創始者だ。
本書の著者はキャロウェイ社に入る前は、ビリヤードのキューを作るために日本に18年住んでいた。ヘルムステッターのキューはいまでも5-10万円で売られている。以前に紹介した『魚には水、私にはワイン』の著者、中川一三氏と友人で、中川氏にカリフォルニアワインを紹介した張本人である。ヘルムステッターに最初にゴルフを教えたのは中川氏らしい。
本書の紹介が遅くなった。本書はそのヘルムステッターが2004年から2005年にかけて『小説現代』で発表したゴルフエッセイ集だ。当然のごとくキャロウェイ社に関連したエピソードが多い。
著者は日本のゴルフを「殿様ゴルフ」と呼び、もっと家族や子供と一緒にクラブで過ごせるようにするべきだとも主張する。また、世界的なプロを輩出するためにも、プロが自立できるように「個人のゴルフ」に変わるべきだというのだ。賛成である。
ともあれ、本書において著者のメッセージは控えめで、むしろ気楽なゴルフ読み物に仕上がっている。キャロウェイ社契約プロのフィル・ミケルソンやアニカ・ソレンスタムの知られざるエピソードは一読の価値がある。
日本人ゴルファーはパー3でショートすることが多く、英国人ゴルファーは逆にオーバーするという。また、英国人はストロークよりもポイントを重視しているという。さらに英国のリンクスでは低い弾道が有効なため、地上戦が必要だともいう。
なるほど、ボクは英国人ゴルファーに近いかもしれない。ストローク数にあまりこだわらず(数え切れないこともあるから)、パー3ではオーバー気味で(クラブの選択を誤っているから)、そして低い弾道が得意だ(トップしているだけだ)。
ゴルファーであれば、読む価値がある本だ。ただし、思わずキャロウェイ社の新製品をチェックしてしまいそうになるので要注意。1500円の本を読んで、何万円もするドライバーをついで買いしてしまいそうになるのだ。