いささか咀嚼不足なのだが、これ以上読み込んでも理解がさらに深まるわけでもなさそうなので、ここらで紹介してみよう。本書はイタリア人数学者によってイタリア語で書かれた現代数学入門書だ。訳者によれば原文はイタリア語らしく飾りのない簡潔な文章だという。それゆえか、この訳者にしては非常に読みやすく仕上がっている。
「数学基礎論」「純粋数学」「応用数学」「数学とコンピュータ」「未解決問題」の5つの章のなかに38の項目が含まれている。本書の中核となる「純粋数学」には「解析学」「集合論」「代数学」など15の項目が、「応用数学」には「ゲーム理論」「形式言語理論」「結び目理論」など10の項目が設定されている。
たとえば純粋数学のなかの「離散幾何学」については、17世紀の球状砲弾をもっとも効率良く積み上げる方法の研究から、20世紀初頭に六方格子が最良であると証明され、やがて数学者たちはその次元を増やしていったことが語られる。24次元に達したときに、リーチは最良の格子配置を発見した。この多次元空間の超球に対する最大密度問題は、現代の通信においてデータ圧縮とエラー訂正に関する非常に重要な理論になっている。この説明に筆者が要したのは4ページの本文と1ページの図版だけだ。
応用数学のなかの「テンソル解析」では、ガウスによる曲面の研究が、リーマンによる多様体の研究へ発展し、テンソル解析が生まれ、結果的に一般相対性理論の記述が可能になったということをわずか2ページ半で記述する。
つまり数式をまったく使わない現代数学を知るための読み物であり、これ1冊あれば数学辞典としても使えそうなのだ。数学にあまり興味のない人でも「はじめに」を立ち読みしてみると良いかもしれない。現代数学の景観が簡単に見て取れる。
「はじめに」をさらに要約してみよう。現代数学がより抽象的になり、膨大な論文が生み出されつつあり、しかも細分化が進んでいるというのだ。その中から本書で紹介するべき項目をえらぶために1900年のICM(国際数学者会議)におけるヒルベルト演説と20世紀後半の数学会を彩るフィールズ賞の2つのイベントをランドマークにしつつ、本書が書かれたという。
本書に問題があるとすると参考文献だ。紹介されている書籍のほとんどがイタリア語で書かれていることぐらいか。腰帯の「数学的難問はこのように解明された」はこれから本書を買おうとする人をミスリードする。「真剣に駆け足で眺める現代数学」とでもいっておこう。