橋マニアにとっては必携書である。判型は縦165mmX横133mm、文庫本をすこし大きくしたような本だ。ほぼ全ページフルカラーで、左ページに橋の写真、右ページにその構造などを示すイラストが配置されている。
第1章は導入部で「橋を理解する」。材料、様式、用途、技術者の順に橋の全体像を説明する章だ。第2章が本体で「ケーススタディ」である。桁橋の例として現代米国のチェサピーク・ベイ・ブリッジなど。アーチ橋としてローマ時代の水道橋、ポン・デュ・ガールなど。片持ち梁橋としてスコットランドのフォース鉄道橋など。トラス橋、可動橋、吊橋、斜張橋を加えて、橋を7様式に分類し、67の橋が登場する。
橋を観賞するには「町と町をつなぐ、人と人をつなぐ、そして心と心をつなぐ」などという陳腐で予定調和的な意味論は不要だ。橋はただただ眺めてその美しさを堪能できる構築物なのだ。おなじ構築物でも建物はオフィスビルや住宅など目的がさまざまだ。時代によっても様式は変わり、観賞のしかたも異なる。
しかし、橋やダムは目的が単一であるがゆえに、設計者の美意識が表出してしまう。その構造はむき出しであり、力学が可視化されている。橋自体を軽量化するために装飾は最小に限られる。そこに橋を架けなかればならない理由が背後の風景に刻まれている。
見ているほうが恥ずかしくなるようなケバケバしい建物が林立している現代中国にあっても橋だけは別だ。重慶市の朝天門長江橋はアーチ橋。アーチ部分が例のごとく中国レッドに塗られてはいるものの、その姿は美しい。
ましてはセーヌ川にかかる可動橋ギュスターヴ・フローベル橋やギリシャの斜張橋リオン・アンティオン橋など素晴らしく美しい。たまにはため息をつきながら世界中の橋を眺めてみるのも良いかもしれない。