外資系に20年近く勤務したため、英会話の秘訣を聞かれることが多い。リスニングやスピーキングなどは後回しでよい。まずは日常会話に必要な英単語を覚えることが先決だと答えている。日本の英語教育はいわゆる文学部系の文献を読むことに力点がおかれるため、CNNのニュース番組を理解したり、ウォールストリートジャーナルを読んだり、日常会話に必要な単語などはほとんど教えていないのだ。日本の英語教育は無駄では決してないのだが、それだけでは会話は絶対に無理なのだ。
どんな単語が必要かを本書から抜き出してみよう。「よだれ」「はいはいする」「おんぶ」「うんち」「おむつ」。これらを知らなくては英語国民の幼児の半径1メートル以内には恐ろしくて近寄れない。コンピュータ用語でも危ない。「暗号化」「強制終了」「メル友」「迷惑メール」などは対応する英語がなかなか思いつかないかもしれない。
スポーツ用語はもっとも注意が必要だ。和製英語が溢れているからだ。野球の「ナイター」は英語では「ナイトゲーム」であることは有名だ。ほかにも「オープン戦」→「exhibition game」「アンダースロー」→「underhand pitch」「デッドボール」→「hit by a pitch」とぜんぜん違う。アメリカ人と野球を見に行くのには勇気がいる。ゴルフもすごい「バンカー」→「sand」などのほか「池ポチャ」「テンプラ」などの単語を知らないと、ティーグランドで自分のショットを嘆くことすらできない。
それどころか、もっと基本的な英単語を多くの日本人は知らない。自分の「胴」「へそ」「もも」「こめかみ」「まつげ」など簡単に思い出せない。生活しようにも「蛇口」「ざる」「コンロ」「ポリ袋」「可燃ごみ」「加湿器」「裏地」「裾」「ジャージ」などを知らないと面倒なことになる。
本書では扱っていないのだが、地球温暖化、企業献金、ゼネコン、統合、移植医療、拉致問題、銃乱射、財政難、太陽光発電などを知らなくては今日付けの新聞が読めない。英語がうまくなりたければ何よりも単語を覚えるべきだという理由がここにあるのだ。