原題は『Life、Energy and the Unity of Nature』である。直訳すると「生命とエネルギーと自然の統一性」だ。邦訳タイトルは明らかにまちがいだ。この間違ったタイトルのおかげで、例のアロメトリーの話かと取り合わなかった人がいるのではないか。1992年出版の名著で『ゾウの時間 ネズミの時間』という本がある。この本はそのアロメトリーをまともに取り扱った最初の読み物だった。
アロメトリーとは生物の体の大きさと、代謝率や寿命や心拍数などの生物学的な量の関数のことだ。ネズミと牛などを比較した場合、体重が1000倍になっても代謝率は180倍にしかならない。つまりより大きな動物はエネルギーを相対的に必要としないのだ。動物の体重と代謝率の相関関係は3/4乗則になっているため、本書のタイトルに3/4が使われたのだろう。
しかし、本書では森も草原も面積あたりのエネルギー消費量は同一であることや、ヒトの電気や石油消費を含むエネルギー消費量と出生率の逆相関、ヘモグロビンが酸素を捕まえる能力と体の大きさの相関は-1/12乗則になっていることなど、驚くべき大量の生物学の発見が紹介されているのだ。そして全ての発見には、発見者である多数の生物学者とその研究の逸話が付属する。
本書が紹介する生物学者たちは統一性または統一理論を物理学的・数学的な手法で組み立てようとする。ゲノムサイエンスが素粒子物理学だとすれば、生物学の統一理論は宇宙論のようなものだといっても良いかもしれない。その意味では統一理論のほうにロマンを感じてしまう。
ともかく本書を読み通すにはかなりの時間がかかった。まさにイギリス人お得意の暖炉の前でじっくり読むにふさわしい自然科学の読み物に仕上がっている。イギリス的網羅性があるとはいえ『タイタニックは沈められた』と異なり読みやすい。翻訳も上手に仕上がっているためだと思う。
本書は今年になって1冊目の本ブログの自然科学系「超おすすめ本」である。