世の中にはびこるデマ、ウソ、エセ科学、妄信などを批判した本である。「9.11は米国政府が仕組んだ陰謀だ」や「HIVウイルスはアフリカ人を根絶やしにするためにCIAの研究所で開発された」などのデマを信じるべきではないと警告する。
当然にして小説『ダ・ヴィンチ・コード』についても手厳しく批判している。たしかに『ダ・ヴィンチ・コード』を小説ではなく歴史的事実として読んだ人も多かったにちがいない。天動説で宗教裁判にかけられ、有罪となったガリレオがバチカンにやっと認められたのが2008年のことだから、そもそもキリスト教裏面史については事実と妄信が錯綜しているのだ。
本書でも最も手厳しく批判されているのは宗教原理主義者たちだ。アメリカのキリスト教原理主義者たちの創造論やインテリジェント・デザイン説についてはもちろん、イスラム教における創造論についても危険な兆候だと指摘する。モルモン教徒にとっては気の毒だが「モルモン教はアメリカ国立自然史博物館から、主たる教義を公式に偽りと宣言された唯一の宗教である。そして、ほぼ完全なデマ情報に基づいた唯一の世界宗教でもある。」とにべもない。
本書はあらゆる怪しげな説や行為や風習を批判しているのだが、その中には針灸も入っている。大槻義彦早稲田大学名誉教授も解説のなかで針灸はインチキだと断定している。確かに針灸で肝臓病が治るなどとはにわかに信じがたいのだが、手足の痛みなどには明らかに最も効果が高い治療法の一つだと思う。
なにしろ、ボク自身が10日ほど前に人生初めての針治療とやらを体験したからだ。ゴルフで痛めた腕と肘をマッサージをしてもらいにいったのだが、針治療も強く薦められた。いやいやながら数本の針を打たれた。かえって腕は重く痛く感じられ不快だったので、なかば怒りながら中止してもらった。ところが、次の日に痛みはあっさり消え去っていたのだ。逆プラセボ状態での快癒である。これは少なくともある種の痛み治療には効果があると認めざるを得なかった。
本書の著者は正規に学会が存在し、そこで認められている以外の言説全てについて批判する。90%はそれで良いと思うのだが、のこりの針灸などの10%については「まあ落ちつけ」と言いたくなる。近代科学の手法によって証明された事柄以外は絶対に信じない。つまり近代科学原理主義者とでもいうべき風情なのだ。とはいえ、宗教原理主義者よりは組みし易しというところであろうか。