本書をきちんと紹介できるだけの知識を持ち合わせていないが、現代アメリカを批判するためには読まなければならない本であることはわかる。アメリカのキリスト教原理主義の奇妙さとその戦慄するべき影響については、なかば面白おかしく書いた本が多数出版されているが、そのほかの主要な思想について網羅的・体系的に紹介しているのは本書だけだ。
ネオコン、リバタリアン、ファンダメンタリズムなどメディアで言及されやすい思想だけでなく、南部農本主義やファンダメンタリズムの始祖であるメイチェンなども丁寧に取り扱う。第11章以降はフランシス・フクヤマの思想から徳富蘇峰、ハイエク、江藤淳、マクラレンまで縦横無尽にその不思議な連鎖を紹介する。
著者はジャーナリストである。したがって、思想家たちを「取材」して本書を書き上げたのだが、思想を取材するという画期的な本になっていることだけは間違いない。巻末の思想家たちを自由と秩序、近代と反近代の軸組みでプロットした図もジャーナリストであるがゆえの大胆さだ。なるほど、フランシス・フクヤマは近代で秩序の象限に、ハイエクは自由と反近代の象限に位置することが一目でわかる。
ところで、本書にも登場する江藤淳は東京工業大学の教授をしていたことがある。じつは親しい友人にそのときの江藤ゼミ生で、江藤淳が仲人をした人物がいる。本人いわく唯一の東工大文学部卒業生だとのこと。恐ろしい量の文章を読まされたらしい。現在その友人は大手SIベンダーにあって、深く文学を理解する金融システム開発の責任者である。ただしゴルフの腕前はボクとスクラッチ程度でしかない。