典型的な外国発ノンフィクションの大書であり。イギリス人作家らしい網羅性と複雑な構造をもっていて、あまり読みやすい本ではない。全ページを読み通すことは難しい分量だ。アマゾンレビュアーの1人が言っているとおり、字も小さく頭が痛くなりそうだ。
タイトルはタイタニック号遭難に纏わる陰謀もののようにみえるが、読み終えるとその説こそが正しいという確信に変わる。そもそも、タイタニック号には沈没当初から謎がついてまわったらしい。事前に氷山警告を受けていたにも関わらずその海域に突っ込んだこと。出航直前の乗船キャンセルが多かったこと。見張り台から双眼鏡が撤去されていたことなどである。
じつはタイタニック号にはオリンピック号という姉妹船があった。先に就航したオリンピック号は駆逐艦に衝突されるなどの事故が相次ぎ、鉄の材質にも難がある問題船だった。そのため船会社の経営状態も悪化し、経営陣はなんらかの極端な策を取らざるを得なくなっていた。
筆者たちは船会社が保険金目当てに船を沈めた可能性を示唆する。しかし本当の疑問はどちらの船が沈んだのかということだ。あとは本書を読んでのお楽しみである。
ところで、この9月に全米第3位の金融機関であるJPモルガン・チェースが破綻したワシントンミューチュアルを買収した。この会社はJPモルガン銀行を母体にチェース・マンハッタンやベア・スターンズそしてワシントンミューチュアルを飲みこんで巨大化した。
じつはタイタニック号に乗る予定だっただけでなく、実質的なオーナーでもあったJPモルガン氏が創設したのがJPモルガン銀行なのだ。このJPモルガン氏は非常に幸運にも乗船をキャンセルしてフランスの避暑地にいた。彼と一緒に積載されるはずだった美術品コレクションもたまたま「木枠止めが中止されたため」難を免れている。
タイタニック号の遭難は1912年のことだ。それ以来、アメリカの金融業は文字通り人の生き血を吸う化け物であり続けているのだ。