クエッション・マークで終わる題名はいかにも安っぽいが、原題は『ハイジャッキング・アメリカ』である。あらかじめ断っておくが、読みにくい本だ。大量の情報が複雑なロジックで提供されていいるからだ。原書はフランス語だっただけのことはある。
第二章では一行目から読者に対し「自分がアメリカの新保守主義の高官かシンクタンクの一員であると想像してほしい。」という。そのつもりでこの章を読めというのだ。(そんなこと無理かも)
そして次のページでは「あなたは中国について非常に心配しないだろうか?」といきなり聞いてくる。(言われてみれば心配だが、何を?)
さらに次のページでは「あなたは東半球よりも西半球の専門家かもしれない」と仮定をさらに複雑化する。(つまり、自分は西半球に詳しい新保守主義者なんだっけ)
さらに次のページでは「あなたはまた、ポール・ウォルフレン率いるグループによって作成された国防計画指針と呼ばれる1992年の文書について考えをめぐらせるかもしれない」などという。(うーん、そんな考えはめぐらせないと思う)
本書の位置づけについては訳者が訳者解題で「本書の核心」は「いかにしてなぜ宗教右派と世俗右派がアメリカの政治と文化を乗っ取ることに成功したのかを明らかにすることである」と簡潔に説明している。著者はそのために大量の情報を集め、分析し、解説している。たとえば「読者はティム・ラヘイをドミニオニストとみなすだろう、より正確には千年王国前再臨説(プレミニアリスト)のドミニオニストである。彼はまたデュスペンセーショナリストでもある」などということを理解したい人には最適な本だ。
在宅教育の「理科」のテキストの内容なども紹介されていて面白い。
-地球の創造は6000年前であり、炭素分析などでの年代測定法は信用できない
-同性愛者は8-20年ほど平均寿命が縮まる
-気候変動は起こらない、なぜなら神が「抑制と均衡」をもたらすからだ
-グランドキャニオンを形成したのはノアの洪水だ
-数十億年前の恒星の光は、昔は光の速度が遅かったからだ
じつは本書はキリスト教原理主義者・新保守主義者が長期的に資金と人材をかけて戦略的にアメリカを乗っ取ったことを証明する本だ。そのため、共和党の支持率が低下し、オバマが大統領になっても、アメリカは変わりそうにないということを憂う本でもある。本書で提示されている対抗手段はじつに心もとない。アメリカの右翼による「諸機関を通じた長征」の教訓を学んで、同様のことをするべきだというものだ。暗然たる恐怖が増す本だ。