B&Bで開催した公開朝会の2週目で副代表の東えりかが紹介していた『女子とニューヨーク』を紹介する。なぜ東ではなく新人のお前がレビューしているのだ!と東のレビューを心待ちにしていた人から非難の嵐が予想されるので、先に謝罪をしておこうと思う。もうしわけない。東えりかのレビューはきっとどこかで見られると思うのでそちらをぜひご覧頂きたい。
ただ「 HONZには、下克上という言葉はあっても、謙遜という言葉はない」と仲野先生より伺っているので、これからも遠慮はせずに書くつもりだ。と、超速レビューなのに前置きが長くなった。
『女子とニューヨーク』はニューヨークの女性文化の歴史を、映画やドラマ、ゴシップ、ヴォーグとハーパース・バザーのライバル関係といった様々な視点から書き連ねたものだ。その関係性は複雑に入り組んでいて、あの映画とあの本がこんな風につながっているのか!といった、たくさんの驚きがある。帯にある柚木麻子さんのコメントに「これは乙女のダ・ヴィンチ・コードですか?」とあるが、まさにそんな感じで、緻密に組み上げられていったつながりが、ある一点に集約されていくさまに心が踊らされる。特にヴォーグとハーパース・バザーの話は、まるで大奥のようでおもしろい。編集長とそれに振り回される編集者。そのあたりは『プラダを着た悪魔』を観るとイメージがつかみやすいかもしれない。
プラダを着た悪魔
参考リンク→http://www.youtube.com/watch?v=zn456Cq-6_8
タイトルの『女子とニューヨーク』は『SEX AND THE CITY(以下SATC)』の原作である『セックスとニューヨーク』を意識して取られたものだろう。私は『SATC』をみたことがないのだが、そのルーツが『ティファニーで朝食を』にあると聞いて興味を覚えた。ティファニーで朝食をで一番有名なのは冒頭のシーンだろう。ニューヨーク5番街のティファニーの前に、黒いジバンシーのドレスに身を包んだオードリー・ヘップバーンが降りたつ。片手にカップのコーヒーを持ち、デニッシュを頬張る姿は、格好に似合わずはすっぱな印象を与える。このシーンのオードリーはニューヨークを代表とするアイコンの一つといってもいいだろう。彼女の名前はホリー・ゴライトリー。彼女こそニューヨーク女子の原点である。
ティファニーで朝食を
参考リンク→http://youtu.be/utAGOxLMFlY
ホリー・ゴライトリーのイメージは小説と映画ではかなり異なる。小説版では南部出身で、ニューヨークに出てきたということがわかるが、映画ではそういったイメージはなくなっていて、背景が見えない人物となっている。良家の子女ではないにもかかわらず、高級な服に身を包み、連日パーティーで遊んで、様々な男性と関係を持っている。それなのに本来ならばそう見えて然るべきはずのコール・ガールにはみえない。オードリーの清廉潔白なイメージにより、なにを生業として生きているのかわからない都会の妖精のような存在になっているのだ。
さらに都会の妖精のイメージを強めている話がある。『ティファニーで朝食を』の著者であるトルーマン・カポーティはこの役をマリリン・モンローに演じて貰いたかったのだそうだ。しかしコール・ガールの役がマリリンのイメージを固定してしまうことを嫌ったため、断られている。代わりに選ばれたのが全くイメージの異なるオードリー・ヘップバーンだったのである。このことを知っていると、オードリーの演じるホリーの向こうには、マリリンの演じるホリーが見える。セックスシンボルであるマリリンと、スタイルアイコンであるオードリー。二人のイメージが重なるホリー・ゴライトリーはリアルとファンタジーとを兼ね備えた完璧なヒロイン像とは言えないだろうか。
ホリー・ゴライトリー。彼女こそがニューヨークで生きる女の象徴である。様々な女性のイメージが詰まったプリズムのような存在だ。自由で、痛ましくて、リアルな女性であると同時に妖精じみていて、非現実的ですらある。『SATC』のキャリー・ブラッドショー(サラ・ジェシカ・パーカー)はその系譜を受け継ぐ存在である。そしてニューヨークを舞台とするドラマや映画のヒロインには、これからもこういったものが求められ続けるのだろう。
ニューヨーク。それは田舎の少女たちがそこにたどり着くことさえできたら、すべての夢は叶うと信じるオズの国のような存在。そして夢見る少女はニューヨークを目指す。『SATC』の映画の予告でキャリーに「なぜニューヨークに出てきたの?」と聞かれて「恋に落ちるために」と答えている黒人女性のように……。
著者の言葉を借りてレビューを締めるとしよう。
ニューヨークと女子のロマンスは尽きることなく、イルミネーションのように
ザ・シティに光を灯し続け、都会を夢見る少女たちの胸を焦がす理想郷で
あり続ける。
夢と希望にあふれたニューヨークとそこで輝く女子たちに栄光あれ!
映画版の『ティファニーで朝食を』。ジバンシーのドレスに身を包んだオードリー・ヘップバーンの美しさには目を奪われる。本著を読んだ際にはぜひこの映画もみてほしい。
小説版の『ティファニーで朝食を』。このレビューを書く際に読み返してみたのだが、やはりホリー・ゴライトリーという女性の魅力は筆舌に尽くしがたい。
『SATC』の原作。『セックスとニューヨーク』を読んで、気になったのでつい私も購入してしまった。ドラマの『SATC』を期待してるとがっかりするらしいのだが、ドラマを見ていない自分はどうだろうか?
日本に置き換えると、女子が夢みるニューヨークはやはり東京なのだろう。東京から夢破れ、地方でくすぶっている女性の話や、東京にでればきっと違った自分になれるといった思いを抱く女性などを描いた小説。これがデビュー作だなんて信じられないほどの傑作。
山崎まどかさん本人から伺った
『女子とニューヨーク』の関連の動画や写真集この本を読むときの参考にどうぞ。