先日何気なくつけたテレビで目にしたNHK番組「仕事ハッケン伝」には心底参った。職場体験者である芸人ザブングル加藤のミッションは、女子中学生向けのファッション誌「ニコラ」の編集を担当するというものだった。
加藤はいつにも増してカッチカチの険しい表情で、不慣れな仕事に懸命に取り組む。企画のネタだし、少女モデルへ流行の話題の聞き込み、写真撮影に誌面の割り付け検討……。が、大方の予想通り、編集長からはこんなダメ出しの嵐。
(加藤案の誌面企画ポンチ絵と雑誌のバックナンバーを見比べながら)
編集長 「加藤クン、この雑誌を見て、どう思った?」
加藤 「えっ、色や写真で目がチカチカして……」
編集長 「そう、でも、君の企画案を見ても、全然目がチカチカしないよね?」
言われてみれば確かにそうだ。ティーンエイジャー雑誌を開いてみれば、とにかく誌面はテッカテカのキラキラ。 ワタシにも写真や手書き調のポップが雑然と詰めこまれているようにしか見えず、目のやり場に困ってしまう。
かたやスタジオでは「おバカタレント」としてブレイク中の鈴木奈々が、雑誌モデルの女子中学生とすっかり意気投合している。ジェネレーションギャップを感じずにはいられない光景。「ABCの歌もロクに歌えない」タレントに舐めさせられた、まさかの敗北感。もしや、自分はこのまま中年の坂を真っ逆さまに転げ落ちるばかりなのでは、との不吉な予感がふと頭をよぎる。
あくる週末、そんな悶々とした思いを抱きつつ、いつもの紀伊国屋新宿本店で新刊本巡りをしていたときに目に止まったのがこの一冊だった。カメラマンには中年男性も多いはず。彼らだって、世代や性別の壁を乗り越え、一瞬のシャッターチャンスに少女の心の機微を見事にとらえている。ここに何か発想のヒントがありそうだ。
プロフィールによれば、著者は1978年生まれと言うから私と同い年。ページを繰ると、様々なガールズフォトの合間合間に撮影のイロハや心がけ、現場でのエピソードが綴られ、フォトエッセイのような仕上がりになっている。目にもやさしく、パラパラとめくるだけでも癒される気がする。
さて、被写体は気まぐれな女の子。イメージ通りの撮影は難しく、現場は想定外の連続だろう。そこで、人一倍の人見知りでコミュニケーション下手だったという著者にとっての、女の子の素顔を引き出すための有効な作戦の一つが「ジャンプ」だと言う。
「ジャンプをすれば誰もが必ず無防備な状態になり、普通にカメラを向けるだけでは見せてくれない、とても自然な表情を撮ることができます。」
「一言で言うと、僕はジャンプ写真に奇跡的な瞬間を求めています。ほんの一瞬のことなのでいつ傑作となるタイミングが訪れるのか……その瞬間を外さないように狙って撮っています。」
たしかに、相手の緊張をほぐすには、何か体の動きを取り入れたほうが良さそうだ。カメラへの意識も薄れ、より自然な表情が出てくることだろう。
もちろん、良い写真を撮るには「誰を、どこで、どんな風に」撮りたいか、という”テーマ”設定が重要。「スタイルの良い美人を、海辺で、水着姿で」撮りたいでもいいし、「年下の女の子を、近所の公園で、デートしているかのように」撮りたいでもいい、とは著者の言。
と、どんどん”イメージ”が湧くのは良いとして、男子諸君の本音として、そこで湧き出ずるのはインスピレーションではなく「妄想」や「下心」ではないか、という真っ当な疑問に突き当たる。写真家のホントのところはどうなのだろうか。
著者は「欲望の目線とコントロール」について、「欲望のままに撮るのか、クールに撮るのか。ガールズフォトを撮る人はそのどちらかに分かれると思」うと断ったうえで、自身はクールに撮るタイプであり「欲望の目線を排除したうえで、フェティッシュな切り取り方をする」からこそ自分スタイルが作品の写真に現れる、と語る。
他方、「リアルな恋愛対象ではなかったとしても、擬似恋愛をして気持ちを高めて撮ることも時に有効な手段」と認めている。この辺は、恋愛ドラマに出演する俳優の役作りに似ているのかもしれない。
ところで、ガールズフォトの醍醐味と言えば、顔や全身の姿見のみならず、体の特定パーツのズームショットではないだろうか。「表情があるのは顔だけではない。手や足にも表情がある」との言葉も、彼の写真を見れば納得がいく。「パーツ=フェチ」と単純に考えるのではなく、モデルの最も美しい部分(パーツ)を探し、意識して映し出す・顔と一緒に撮ることで、女の子の持つ「かわいらしさ」や「みずみずしさ」がよく引き出されている。
本書には「青山流 パーツ写真 ワンポイント講座」と銘打ったコラムもあり、著者のパーツへのこだわりがうかがえる。「唇」や「うなじ」といった定番パーツに加え、「喉」や「膝裏」、「絶対領域」といった玄人受けするパーツまで、撮影のワンポイントアドバイスが写真入りで紹介されており、何かと重宝する方もいるだろう。
その他、モデルの探し方、ロケ地やカメラ、レンズの選び方、メイクや小物の準備や写真補正、モデルの体型を聞き出すための質問テクニックまで、ガールズフォト撮影に必要となる実践的なアドバイスもこの一冊に網羅されている。
青山氏の写真はよい佇まいをしている。そこには思春期男子の女子へのあこがれや、声をかけたいんだけど勇気が出なくて……的な距離感もあり、妙にリアリティがこもっている。
残念ながら、本書の写真をここに掲載することは出来ないので、続きはぜひ実物を手にとっていただきたい。代わりに氏の写真集をリストアップさせていただくので、ここは書影でなにとぞ辛抱を。
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写真の撮り方をバッチリ押さえたところで、今度は自分の写真写りもアップさせよう。ウェディング撮影会社で徹底的にノウハウを習得した写真のプロが、写真写りが劇的に良くなる技術を解説した一冊。履歴書・学生証・社員証・運転免許証・パスポートと、証明写真の登場する場面は意外と多い。
ちなみに、夜間に室内で蛍光灯の明かりの下、デジカメの自分撮りで撮影した私のHONZプロフィール写真は典型的な失敗例(苦笑)。近い将来にサイトリニューアルがあると信じ、次こそはリベンジを!