非常に書評しにくい本である。編集者はHONZの身内とも言って良いハマザキカクだ。本人からの献本でもある。テーマがテーマだ。しかも「まえがき」では「本書の目的」は「本書では自殺について『問題』として『現象』としてとらえている」と宣言しているように、日本のおける自殺年表人名データベースなのである。
2473件の自殺を1880年以降10年毎に分章して収録してある。可能な限り実名、役職名、場所、方法、理由などをただただ索引的に羅列している。章の間には自殺現場となった場所の写真が挟まる。献本いただいておいて言うのもなんだが、自分ではけっして買わない本だ。普通の方にもおススメしない。本書から何かを読みだすことができる社会学者の論文を待っても遅くないかもしれない。
繰り返しだが、本書は読み物ではない。眉をひそめながらページをめくると、それぞれの時代が別の角度から見えてくるような気がするのだ。明治から大正にかけては作家の自殺が目につくし、入水自殺もこのころの特徴なのかもしれない。太平洋戦争の戦中戦後はもちろん軍人が多い。特攻隊を指揮した将官も何人か亡くなっているのだが、なかには偽装自殺に成功し82歳まで生き延びた有人飛行爆弾「桜花」の発案者なども記載されている。
経済白書が「もはや戦後ではない」と宣言した1956年ころからはジャズピアニストや漫画家、放送作家などの名前が出てくる。それ以降、現在に至るまでのデータは淡々としていて不気味でもある。自ら編集も校正も装丁も行うハマザキカクでなければ、採算は絶対に合わないであろう。(本当に採算は計算してあるのだろうか?)
本書をここでレビューした理由はただ一つ。日本の出版文化は捨てたものではないということだ。このような本が知の底辺にあってこそ、社会学や精神病理などの研究者が重層的な仕事をすることができると思うのだ。出版における多様な表現が許されることがあってこそなのである。