長かった冬もようやく終わり、東北にも春が訪れたようだ。この冬は、いつにも増して寒く雪が多かったと聞く。東日本大震災から1年以上経過しても、多くの仮設住宅に住んでいる方は、ほっと胸を撫で下ろしているのではないか。しかし今度はまた暑い夏がやってくる。
2004年から2007年にかけて、水害や中越地震、中越沖地震に見舞われた新潟県では多くの人々が仮設住まいを余儀なくされた。その折、新潟大学工学部建設学科の岩佐研究室が住人たちから意見を募り「仮設の知恵」の研究を行った。東日本大震災にそのときの知識を生かすべく、学生たちはホームページ「仮設のトリセツ」を立ちあげた。
本書はその知恵をまとめた、いわゆる「仮設の取扱説明書」である。災害直後の入所当時はお仕着せのプレハブに日本赤十字や行政から支給された6点セットといわれる電化製品〔洗濯機(7kg)冷蔵庫(290ℓ)炊飯器(5.5合)電子レンジ(18ℓ)テレビ(32インチ)電気ポット(2ℓ)〕や生活必需品だけを手に途方にくれるだけだった住民も、仮設での生活が長くなるにつれ、個性的で使い勝手のいいように手を加えていく。
仮設に入居できるのは基本2年だそうだ。しかし中越地震のときは3年ほどかかり、今回は多分、もっと長きに渡るだろう。
津波で部落ごと流された住民は、仮設でも近くに住めるように配慮されたようだ。狭く、寒暖の差が激しく、音が響きプライバシーがないような生活はストレスを溜めがちである。少しの工夫でそれを和らげることが出来るのなら、素晴らしいではないか。
この本では「仮設に入ることになったら」という入門編から「10の心得」や東北地方の寒さ対策で作られた「風除室」の活用術、達人たちの仕事や収納のテクニックなど写真つきで紹介していく。
退去するときは現状復帰が原則なので、釘を使った大幅な改築は出来ないが、それでもホームセンターや100円ショップで見つかるもので、見事な棚や物置きを作り上げている。日差し対策や老人のためのスロープなど、暮らしてみなければ分からない不便さを、どう解消するかは、そこに行ってみなければわからない。
近所づきあいも難しいと思う。外からは立ち入りにくい部分も多いが、この本では学生たちの聞き取り調査が功を奏しているようだ。子供たちと遊ぶ学生の写真なども掲載されている。
何よりの発見は「大工仕事の得意な人に頼む」ということ。今回の震災では船大工や漁師など、日常的に大工仕事をしている人が多い仮設ではすばらしい工夫がなされている。「手間賃を払うこと」という但し書きがされなくても、老人家庭や不器用な人たち(私のような)は、そういう人を頼ることになるだろう。こんな当たり前のことに指摘されるまで気づかなかった。
何年かに一度は災害に見舞われる日本。『仮設のトリセツ』の更なる充実が望まれるところだ。
なお、本書の印税は災害復興支援の研究のために使われるという。
東京のホームレスを取材したこの本もきっと役に立つ。