本書の前半は現フランス大統領、ニコラ・サルコジを主役にした、ロマンスと陰謀が渦巻くドタバタ喜劇だ。1996年、サルコジはW不倫の果てに前妻と離婚した。新しい妻、セシリアは内務相となったサルコジの仕事に口を挟むどころか、省内に執務室を構え、人事にまで介入し始める。国庫から直接引き落とされるクレジットカードまで作っていたという。
ところが、その妻とは不倫を理由にまた離婚。首尾よくサルコジはスーパーモデル、カーラを妻にするのだ。そのカーラの男性遍歴は奔放そのもので、エリック・クラプトンからミック・ジャガーまで登場する始末だ。
ついに大統領府に入ったカーラは、それまでセシリアの寵愛を受けていた側近を一掃する。歌舞伎やシェークスピア作品を現代風に脚色したのではない。すべて実話であり、進行中なのだ。
本書の後半は、この特異な国家元首サルコジの政治手法とその分析にあてられる。野党は一本釣りでズタズタにされ、右派はいつのまにか取り込まれてしまう。テレビキャスターの人事にまで介入し、親同然だったシラクも裏切り、「青少年が自殺するのは遺伝的に本人がひ弱だからだ。」などと暴言を吐いて悔いない。
著者はそのサルコジを評し、マーケティングで政治を変えた男だという。綿密な調査とそれに基づいた大衆受けするストーリーの構築が鍵だというのだ。フランスは被占領国であり戦勝国である。カソリック国であり、階級社会だ。地中海的な性格があり、左翼が政権を担ってきた国だ。誇り高く複雑な国、フランスが敢えてサルコジを選んだ理由あるはずだ。
フランスは「サルコジ野郎」を選ばなければならないほどの一大事を抱えているのかもしれない。嫌いだったフランス人を少しは好きになれそうだ。
(産経新聞6月13日号「書評倶楽部」掲載)