図版のある本が大好きなので、本屋ではいつもチェックしているのだが、HONZに参加する事でさらに輪をかけて調べるようになった。今回はその中でも上位に属する「鳥系の本」だ。
私は都内の大学に入学する迄は田舎で育ったので、周りは田んぼと山ばかりだった。子供の頃、そんな景色の中で大きな鳥を見れば「あれは鷹だ!」とか言い張っていたが、実際はトンビだった。同じように高い鉄塔を「東京タワーだ!」とか言ってたりもした。一度でも思い込んだ印象は強く残るものだ。
本書は、当時鎖国中の江戸で非常に珍しかったオウムやインコ、九官鳥などの飼い鳥から、江戸近辺で見られたであろう様々な野鳥達を、大名お抱えの絵師達が描いた一冊。これがすこぶる楽しい。江戸時代では、本草学の延長として国内外の動植物の絵を載せた解説図譜が数多くつくられたが、当時のワールドワイドな鳥輸入の実態をフルカラーで学べる。
写真ではなく絵なので、当時の江戸人達の「印象」が映し出されていて面白い。現在我々が見ている鳥の姿と大きく異なっていたりする。(お世辞にも上手いといえない?な絵もある)例えばオナガキジの羽は端折りすぎたのか、鯉のぼりのウロコに見える。チドリ目ウミスズメ科のウトウは、デッサンが狂っており、どちらかというとキマイラなど空想上モンスターに近い。極めつけは、アジアの代表インコであるダルマインコで、顔は正面を向き、片方の羽は開き、一方は閉じる。片足は延びており、一方の足の爪は回転しており、さらに自らの腹につき刺さってる。もう何がなんだか、明らかに構図が変なのだ。
しかし昔からある「人相書き」では、日本でも人を探すとき似顔絵を使用していた。意外にこの的中率は高く、警察が指名手配に使用する「印象」に特化した絵は、実用的といえる。
私は子供の頃インコを飼っていたので、すぐ鳥達の愛らしいに姿に反応してしまうだが、加えて当時の絵師達の、動きまわる鳥達を忠実にとらえようとしていた姿を想像するとグッと愛くるしく見える。
絵師には達人レベルもいるので、それらの図譜には脱帽してしまう。キジ目キジ科のウズラなどは、羽の緻密な再現が見事で、伊藤若冲を彷彿させるダイナミックな構図と緻密な描写になっている。余白に生態と特徴を述べた解説があるが、達筆のため一瞬ポエムにも見える。躍動感と生命力も表しているので、これなら茶室の掛軸にもなりそうだ。ふと輸入記録の絵師にも若冲が参加していたら面白いかも、と思ってしまった。(あらゆる鳥が鳳凰になる可能性もあるが)
それにしても羽や爪など、科学的な視点で描かれた絵には、独特な「美」も存在しているように感じる。
後半は毛利梅園の項目だ。梅園とは江戸時代を代表する本草学者で、300石取りの旗本になる。しかし博物学と本草学に強い彼はとにかく多くの図譜を残した。鳥だけでなく、魚類なら他にも「魚譜」、きのこならば「菌譜」などと描画範囲はかなり広がっていった。後半は彼が残した『梅園禽譜』のなかの日本の野鳥の絵を集め、著者の簡単な解説をつけたものになる。
筆者は歴史ある「日本野鳥の会」メンバーでもある。途中に添えられる解説は長年培われた研究結果でもあり、普通の人が読んでも視点がユニークでためになる。この中の資料は膨大なデータベースから抽出したらしいが、さぞかし時間をかけたのだろう。
鳥の知識のみならず、当時の鳥と人との関わりが垣間見える。鳥好き&博物画好きにオススメの一冊。
----【その他おすすめ】----
国立国会図書館のサイトでも江戸の鳥を確認できる
鳥声研究の友人も大絶賛する一冊。読み易い内容で、よけいに鳥が好きになる。
HONZでの鳥ブームはダチョウあたりから次第に注目され、東えりかに「鳥ものにはずれなし」と言わせた本書で確定した。