本書は「グーグルの72時間」という巻頭ドキュメントから始まる。Googleは、3月11日、地震発生からわずか1時間46分という驚くべき早さで日本語使用の安否情報確認ツール「パーソンファインダー」を公開した。まだほとんどの人たちが避難していたり動揺していたりした中、六本木ヒルズ森タワー26階ではGoogle日本法人の川島優志氏(34歳)や三浦健氏(38歳)が、独自判断でシステムやサービスの立ち上げに取り組んでいたのである。最終的には67万件以上の登録者数を集め、大きな注目を集めた「パーソンファインダー」。その立ち上げの舞台裏では何が行われていたのか、本書はドキュメント形式でその72時間を記録している。
本書はGoogleだけでなく、Yahoo!、Twitter、Amazon、ニコ動、USTREAM等、IT業界がどのように今回の震災と核被害に反応したかも記している。例えば、Yahoo!JAPANは、震災後の3月14日に計23億6500万ページビューという驚異的なアクセス数を記録にも関わらず、サーバーをダウンさせなかった。東京電力や日本赤十字など、重要サイトが軒並みアクセス過多によりダウンしている中、アクセスの分散や海外サーバーとの連携などによって危機をしのいだのだ。国内最大のポータルサイトとしての意地と技術力を見せつけた瞬間である。
意外かもしれないが、サーバーダウンしていた日本赤十字を救ったのはショッピングサイト最王手のAmazonだったそうだ。世界有数のショッピングサイトの構築を通して作り上げたITインフラを日本赤十字を含む重要サイトに無料で提供したのである。Amazon Data Service Japanの玉川憲氏率いる「タイガーチーム」やServer Works大石良社長率いるメンバーが不眠不休で日本赤十字のサーバーを復旧させたのだ。
これら、どの話しをとっても「NHKスペシャル」のコンテンツになり得る。これだけでも十二分に面白いのに、本書の編集者は欲張りだ。IT業界による震災後の初動をレポートするだけに留まらず、メディアについても識者に文章を書かせているのである。
中でも一番読み応えがあったのが、海外メディアがどう日本を取り上げたかを整理している章だ。日本のメディアは、海外メディアに比べて、福島第一原発で働く日雇い労働を含む現場で働く労働者に関する報道をさほど積極的に行わなかったという指摘や、BBCを含む国際的に影響力あるイギリスメディアが「誤解を招く報道」を発信した結果、特にヨーロッパで日本に対する風評被害が深刻化しているという指摘など、本来はどうあるべきだったのかと色々と考えさせられる内容になっている。
その他にも、福島第一原発の事故で大きな注目を集めた緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム「SPEEDI」の実際のオペレーションの様子や、演算能力で世界一となった「京」が災害シミュレーションにどのように使われているかなど、本書が記載する内容はどれも興味深い。欲を言えば、最後の知識人たちの対談はもう少しITやソーシャルメディアにテーマを絞って欲しかったが、それを差し引いたとしても素晴らしい内容である。
一般に、「危機に瀕して初めて世の中は変わることができる」という。今回の災害により、政治や経済は変われなかったにしても、IT業界は変わっていくだろう。災害時のIT企業と行政との連携、放送と通信の融合など、いつか振り返った時に「あれが転換点だった」と言われるかもしれない。その際、引用されるのは本書が取り上げた内容だろう。本サイト愛読者の方々には、ぜひ本書を手に取ってその歴史的転換点の目撃者になってほしい。
あー、こんな面白い内容、書籍だけではもったいなさすぎる。NHKさん、ぜひ「NHKスペシャル」で取りあげて下さい!