本書は2009年7月に単行本として出版された傑作ノンフィクションである。それから2年半がたち、文庫化するにあたって、巻末の解説をあらたに書き起こすことを引き受けた。以下のレビューは2009年9月に週刊朝日で掲載されたものだ。自分でいうのも変だが、本書を読み終えたときの熱気が伝わってくるようだ。ノンフィクションファン、アフリカ・資源関係ビジネスパーソン、冒険好きなどにおススメだ。文庫版は本日発売である。
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本書のテーマはアフリカの地下資源と暴力についてである。著者によるまとめがわかりやすい。「地球規模の格差社会の底辺に置かれているアフリカから染み出す犯罪などの負の側面は覚悟の上で、競争礼賛で弱肉強食の道を突き進むのか(中略)私たちは今、命の価値を巡る一つの岐路に立たされているのではないだろうか」と読者に問いかける。
とはいえ、よく見かける外国の記事やレポートをまとめて、社会正義を熱く語るだけの評論家や学者の本などではない。すべて著者自身による戦慄的な直接取材によるレポートなのだ。表紙写真はスーダン・ダルフール地方の反政府戦闘員の姿だ。著者はこの「至上最悪の人道危機」と呼ばれている紛争地帯に、密入国までして取材に向かった。
スーダン政府は30万人もの自国民を虐殺したといわれている。現在の国家元首であるアル・バシル大統領に国際刑事裁判所が逮捕状を出しているほどだ。もちろん、無政府国家で、海賊が多発するソマリアにも取材に向かう。事前に準備したのは現地私兵である。10人の重機関銃を持つ完全武装の男たちを雇ったというのだ。
しかし、けっしてこれが過剰反応ではないこと読者は知ることになる。ホテルの窓はジュラルミンで覆われており、外では銃声が絶え間なく聞こえる。国家がないので殺人などの犯罪を取り締まる機関どころか、法律そのものがないのだ。もちろん著者は無事ではすまない。ヨハネスブルグで留守を預かる家族が強盗に襲撃されている。南アフリカの強盗事件発生率は日本の120倍である。ワールドカップの開催が予定されていて、比較的安全といわれている国ですらこの状態なのだ。
ところで、著者はスーダンやソマリア、コンゴなどで資源に群がる中国人の影を見ている。紛争国に資金供給して資源を得る中国。その中国から資源が姿をかえただけの製品を買いたたく先進国。負の連鎖が止まらない。
久しぶりに熱い本を読んだ。本書はホンモノの新聞記者という、日本の希少資源の重要性を気づかせてくれる良書でもある。