一見、ビジネス書っぽいタイトルが付いているのだが、いわゆるマイクロビジネスをテーマとした本ではなく、これからの時代を生き抜くための思考の原理原則が描かれている一冊。問われているのは、わたしたちの生活、社会がこれまでの延長線上でやっていけるのか、否かということだ。
著者はいわゆる小商いの事例として、昭和30年に商店街によく見られた帽子屋の例を取り上げる。当時、そのような帽子屋がなぜやっていくことが出来たのか?それは、一日に数個の商品が捌ければやっていける徹底したコストバランスで営んでいたということがあげられている。と、ここまではよくある話。
だがもう一つ、帽子には「紳士のたしなみ」を表す社会的な役割があったのだという。当時は明確に存在した大人と子供の線引き。大人とは「いま・ここ」に対して責任を持つ存在であったのだ。
それなら責任を持つとは、どういうことなのか?それは当事者である自分が努力すれば解決する問題に、きちんと向き合うこと。このためには、ヒューマン・スケールという人間寸法を意識して世の中を見つめ直す必要があるというのが著者の主張だ。
テクノロジーや文明の発展によって見失いがちな個人というもの。そんな中でヒューマン・スケールを復興させるためには、やみくもに成長や利便性を追うのではなく、これまでとは別の価値軸を見出さなければならないと著者は説く。当たり前のことが当たり前のように語られているのだが、ハッとさせられる思いがする。
※同著者『俺に似たひと』の 東 えりか によるレビューはこちら