心からイギリスに行きたいと思わせてくれたのは、なんともつまらないが電波少年だった。猿岩石のゴールの瞬間を見て、感動した。旅のゴールとしてのイギリスになんだか魅力を感じた。旅のおとも『深夜特急』もそうだった。そして、実際、旅をするようになって、イギリスを訪れた仲間に聞くイギリス評は「飯がまずい」「物価が高い」「天気が悪い」の悪口ばかり。たまに聞く良い話はお金の話、胸をどきどきさせる話を聞くことは多くなかった。旅人的観点で固定してしまったイギリスを、「暮らし」本でイギリスの新たな一面を知ることになった。
ところで最近のマイブームは各国の暮らしを調べること、それを参考に暮らしの実験すること。それを通じて、自分の暮らしがより一層おもしろおかしくなることを考えている。知るだけじゃなくて、実験しないともったいない、そんな子供じみた好奇心に犯されている。今の暮らしも親族や一部の友人から見れば、新婚早々、家を開いて友達カップルと4人暮らし+空き部屋一室である時点ですでにおもしろおかしいモノだという人もいるけども、本書然り、『住み開き』や『TOKYO 0円ハウス0円生活』を読めば、まだまだ面白い暮らしが四方八方に広がっている。イギリスが起源のB&Bは今でもイギリスの生活と観光を彩る仕組みの一つ。B&Bを気軽に運営している家庭がたくさんあり、それはまたフリースタイルで、鍵だけを預けて後は信頼してしまって、家を空けて買い物に出てしまう破天荒な家庭もある。もちろん、身の丈にあわない家を買ったり、子供が育つまで空いている部屋を貸し出すことで、ローンの返済を軽減するなど、経済的な合理性もある。それが今ではシリコンバレー発でビジネス(AirBnB)になっている点も興味深い。その原点は、イギリス人の家は家族だけのものではなく「人と出会う場所」という視点だろう。そんなコンセプトがイギリスの印象をほっこりして、温かくしてくれる。
そんな人と出会う場所で頻繁に行われるのが、ホームパーティ。彼らのホームパーティは大げさに準備してしまう日本のおもてなし文化を尻目にスナックと適度なお酒を準備するだけ。後は、参加する人がどんどん差し入れをもってきてそれが追加の酒となり肴となっていく。つい肩肘張ってしまう僕たちと違って、この合理的なやり方に惚れ惚れしてしまう。もてなすことではなく、人と出会うことが大切で、それでいいのだと。日本がいい、イギリスがいいという議論は別にして、家で友人をもてなすことについて、ついつい合理的に考えて、相方と喧嘩をしてしまう男性諸君の背中を強く後押ししてくれると感じるのは僕だけだろうか。
もっとも合理的な仕組みだと感心してしまったのは、結婚祝い、その名もウェディング・リスト(ウィッシュ・リストともいう)。結婚する二人が欲しいものをリスト化したおねだりノートである。基本的には新生活に欲しい、必要なものを書きこみ、贈る側がそのリストからプレゼントを選ぶ。我が家は経験していないが、同じ家電が二つ、三つ届くなんて冗談みたいな話を未然に防いでくれる。ヨーロッパで結婚式に出席したことがある人にはご存知の仕組みかもしれないが、何度聞いても感心してしまう。
他にもたくさんヒントがあるが、醍醐味は本書を読むことでイギリスの生活文化が壁となって、日本の慣習や当たり前の日常生活で盲目的になっていることに気づかされること。著者はイギリス関連本を本当に数多く出版しているのだが、常に来訪者としての視点で、日本人にはあまりみられないユニークな発想で生活するイギリスの人々を切り取ってくれている。値段も普段のHONZで書評される本と比較すれば、お手頃で文章も申し分なく読み易い。
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京都と北海道に住んだ著者が、暮らし方の違いを心理学的に考察する本。北海道の暮らしの謎が明らかになる。
江戸時代は日本になじみのある国だった同じヨーロッパのオランダ。最近のオランダはすごい、日本も学ぶべきことがたくさんあると思わされる本書。暮らしとは少し軸が異なるが、同じヨーロッパの本としておすすめ。