ありふれた食べ物でありながら、地球上のどんな果物よりも多くの人に消費され、何億という人々を飢えから救っているバナナ。本書は、そんなつつましやかな果物の壮大な歴史物語だ。この本を紹介するにあたって、「そんなバナナ!」とだけは言いたくないのだが、驚きの連続である。
19世紀後半のアメリカにおける需要拡大を背景に巨大化するバナナ複合企業と、中央アメリカにおけるバナナ農園の労働者たち。ここにもまた、砂糖やチョコレートと同じような搾取の構造を見ることができる。そんな中、コロンビアではバナナ労働者虐殺事件が起き、グアテマラでは戦争のきっかけとなり、あるアメリカのバナナ王は政治的策略が露呈するのを恐れてマンハッタンの高層ビルから身投げした。
そんな数奇な運命を辿ってきたバナナなのだが、現在パナマ病をはじめとする伝染病が猛威をふるって大変なことになっているらしい。事態は深刻だ。「そんなパナマ!」と遊んでいる場合ではないし、「そんなバナナ!」と元に戻している暇もない。
バナナという果物は本質的に脆弱なのであるそうだ。答えはバナナの皮をめくれば見つけられる。よくよく思い返せば、バナナには種がない。バラを指し木で増やすのと同じような手法で増やすため、あらゆるバナナが遺伝子的には同一なのである。これは、全てのバナナが等しく同じ病気に弱いということを意味する。
世界中で急ピッチに進められるバナナの品種改良、その最前線。はたして人類は、バナナを守れるのだろうか。