人工知能によるチェスプレイヤーと言えば、1997年に世界王者カスパロフを破ったIBMのディープブルーが有名であるが、本書の主役であるチェス指し人形「ターク」はディープブルーより機能が豊富だ。なにしろ、“チェス指人形”とある通り、人形自らが物理的にチェスの駒を動かすことができる。しかも、一度対局が始まってしまえば、数十手対局が進む間、人間がその人形に触れる必要はないのだ。こんな機械が1770年のウィーンに登場したというのだから、その存在は“謎”というしかない。
ヴォルフガング・フォン・ケンペレンの手によって、たった半年で開発された「ターク」はたちまちヨーロッパ中で話題となる。各地で行われるチェス対決興業は大盛況だ。ナポレオン・ボナパルト、ベンジャミン・フランクリン、エドガー・アラン・ポーなどの前でもその実力を存分に発揮した「ターク」であるが、そのあまりに優れた性能ゆえに、「人間が外部から動かしているのではないか?」と疑いの目を向けられることとなる。本書はそんな「ターク」の謎に、じっくりじっくり迫っていく。
「ターク」人気が高まるにつれて、チェス対決興業だけでなく“「ターク」の謎解き”も一つのエンターテインメントとなっていく。「ターク」の謎を解いた!と訴える多数の投書が新聞に寄せられるだけでなく、一流の科学者たちが「ターク」解説本を出すほどの盛り上がりである。ある新聞の編集者などは、自らの記事が「ターク」関連のものばかりになってしまったことを読者に謝罪している。みんなタークの謎が気になってしかたないのだ。
タークの正体は何なのか?結局、その謎は解けたのか??
一度読み始めると、あなたも謎の答えが気になって仕方がなくなる。「ちょい読み」で紹介しておいてなんだが、「ちょい読み」で終わらせることが難しい一冊である。