じつは「ちょい読み」どころではなく、最後まで興味深く読んだ。正規の書評にしない理由は本書がかなり専門的だからだ。難読本ではないのだが、大量に最新情報が詰め込まれていて、対象となる読者は一般人というよりは、分子生物学を目指す学生のための入門書という感じなのだ。逆にいうと非常に丁寧に、一切の手抜きなくオートファジー研究の最前線について記述している。
オートファジーとは細胞が自分を食べることだ。細胞内のリソソームという細胞小器官が細胞内のタンパク質などを食べて分解する。第1章ではそれを概観するだけなのだが、「エンドサイトーシス」「マクロオートファジー」「シャペロン介在オートファジー」など小見出しが立っていて、このあたりでまず本書を通じて使われる用語に慣れる必要がある。たとえば「シャペロン介在オートファジー」とはリソソームに導かれるタンパク質の内部に「リジン-フェニルアラニン-グルタミン酸-アルギニン-グルタミン」のアミノ酸配列があるとき、サイトゾルのシャペロン分子によって識別されてリソソーム表面に運ばれると考えられる、とある。
第2章以降は日本が酵母をつかってオートファジー研究の最前線にたっていること。飢餓とオートファジーの関係、細胞の性質を変えるためのオートファジー、細胞内浄化のためのオートファジー、免疫系でも活躍するオートファジー、そしてオートファジー研究の最前線などで構成される。オートファジー研究はすでに基礎研究からガン治療や抗加齢医学への応用が視野に入ってきたようだ。
ともあれ、本書は論理的に物事を理解するための訓練にもなりそうだ。分子生物学は抽象的だが因果関係がはっきりしているからだ。たとえばこんな文章「オートファジーを利用すれば細胞内抗原を一気にリソソームに運ぶことができる。その詳しい研究からオートファゴソームはMHCクラスⅡコンパートメントにも融合することができる。初めて示された例はエプスタイン・バール。ウィルスのEBNA1というタンパク質でEBウィルスはB細胞に感染して伝染性単核球症やリンパ腫を・・・」やはりかなり難しい?