文庫化されたら世界が滅びる、とまで言われていた『百年の孤独』の文庫版発売に世が沸き返っています。この大作が話題になったことで、読書案内や読書術の本にも注目が集まっているようです。ではノンフィクションジャンルの6月はどうだったのでしょう。まず押さえておきたいのがジャック・アタリの新作
もともと種の保存のために行われた「知識の受け渡し」。歴史の中では、一神教による知識の独占があったり、権力の教育への干渉(これは昨今も世界的な大きな問題になっています)があったりし、現代ではひとりひとりが知識を育てる時代になった。とアタリは説いています。
AIの登場で歴史の先はどうかわるのか、未来シナリオが描かれていきます。
それでは、この他6月新刊から気になる本を何点か紹介していきます。
発売前からわくわく待っていた1冊でした。著者、ジョシュア・ハマーは『アルカイダから古文書を守った図書館員』という作品も書いているジャーナリストです。彼が今回追うのは野鳥の闇取引犯です。野鳥の闇取引というのが大きな闇ビジネスになっており、その裏側には稀少種のコレクター、鷹狩りの愛好家、そしてハヤブサレースを行う中東の富裕層などが存在しているのだそうです。そういった「完璧な鳥」を求めた犯人の足跡を追うノンフィクション!
“猫を飼っている人は猫からの癒しを得ている”。なんてことは、猫の家族にとっては当たり前の話ではあるのですが、近年そういった癒し効果の科学的検証が進んでいることも話題です。
そばにいるだけでポジティブになる、だとか猫のゴロゴロは血圧を下げる効果がある、など商品の紹介文には驚異的なにゃんこパワーとその効果が並んでいます。
こういった科学的な秘密から、猫との付き合い方まで網羅された猫好き必読本。
本のなかでもしばしば出会う共感覚という言葉。音や文字に色がつく、味わいに形を感じる、などの感覚を持つ人たちのことで、人口の4%もの人がそういった感覚を持っているのだそうです。
著者は自らが「ミラータッチ共感覚」という感覚を持っています。この感覚を持つことで、患者の痛みや苦しみを自らの身体で感じることができるのだそう。それで神経科医をやっているのは大変な苦難もありそうですが、自らの臨床体験を通じて脳の不思議に向き合うノンフィクション。
世界最古のアートはネアンダルテール人が描いたと言われていますが、それくらい太古から存在してきている「アート」。人がアートを生み出すのは「アートの本能」があって、進化してきたからなのか?ということに真っ向から挑んだ本です。アートは生きる上で必要不可欠なのか、そうでないのか。脳科学、神経科学、心理学など様々な視点から迫ります。
芸術作品だけではなく、言葉や数字、食事や風景といった「美」についても考える事ができそうです。身の回りのものに対する感覚を点検する意味でも面白そうな作品です。
夏休みが近くなり、大型の図鑑も続々発売されています。子ども向け図鑑といえば鉄板の一つが『恐竜』、恐竜に関しては新しい発見も多いため、発売したら全部買う!という熱心なお子さん(+大人ファン)も多いのです。
そんな“恐竜のシーズン”に登場したのがこちら。
世界最多の恐竜種発見の国であり、恐竜研究史の塗り替えを先導する国である一方で、盗掘や密売も横行している、というのが中国です。発掘するにも研究するにも「国家」を避けて通れぬ中、これからの恐竜研究はどうなっていくのでしょう?
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ながらく“これから出る本”“先月出た本”をやってきましたが、発売前からワクワクする本、発売後、読んだ人の感想を見たからこそ面白さが急上昇する本などそのあり方は様々です。
出版業界ではよく「本に出会ったときがその人にとっての新刊」という事を言われます。年間に発売される本は約7万点。書店が立て続けに閉店し、身近な存在でなくなりつつ今、その中の1冊との出会いも奇跡的な事になってきています。だからこそ、いろいろな作品をいろいろな形でお伝えしていきたいな、とそんなことを改めて考えています。