なぜ東洋医学はわかりにくいのか?『医学問答 西洋と東洋から考えるからだと病気と健康のこと』

2024年6月28日 印刷向け表示
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作者: 仲野徹,若林理砂
出版社: 左右社
発売日: 2024/6/27
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この本を読み終えたら、きっと「あぁ面白かった」と思われるはずです。「勝手なこと言うな、なんでそんなことがわかんねん!」とお叱りを受けるかもしれませんが、まずはその理由を。 

この本の企画は出版元である左右社の編集者・梅原志歩さんからいただいた企画書に始まります。そこには、

「西洋医学と東洋医学の専門家が『不調と病気との付き合い方』について徹底問答! 西洋医学と東洋医学はなにが違うのか、また違うに思えて実は共通するところも(あるのかどうか)? からだとはなにか、病気とはなにか、なおるとはなにか。両者の立場から自分の体を見つめることで、自分のからだの心地よい状態、そこそこ健康な生き方を考える」とありました。

さらに、「・自分のからだについて異なった視点から知ることができる ・気楽に医学について学べる ・西洋・東洋どちらかについて扱った本はあるが、両者を?較した本はおそらく初!」が「この本の目的・ポイント」としてあげられていました。

おもろそうやん。そんな本があったら、自分でも読んでみたいやん。でも、東洋医学代表の良き対談相手が必要です。これはもう若林先生しかありません。というのは、五年ほど前になりますが、「“ほどほどの健康”でご機嫌に暮らそう」というタイトルで対談をしたことがあったからです。初めて知る内容が面白すぎて、初対面だったにもかかわらずむちゃくちゃに楽しい対談でした。そんな経験がありましたので、たっぷり対談したら絶対、役に立つしおもろい本になるに違いない。そう考えて打診したら、快諾。こうして出来上がったのがこの本です。

五回にわたる対談は予想以上の爆笑に次ぐ爆笑で、本当に楽しいことでした。脱線に次ぐ脱線だったのを、梅原さんとライターの新原なりかさんが実にうまくまとめてくださったのは感謝しかありません。でも、きっと難しかったのでしょう。最初のゲラが送られて来るまでにそこそこの時間が過ぎました。あまり記憶力がよろしくないので、楽しかったこと以外、対談の内容をすっかり忘れていたのですが、読んでびっくり。むっちゃおもろうて役に立つやん! というような事情だったので、みなさんにもきっとそう思っていただけたに違いないと確信しているのであります。

初対面の対談は2019年の1月だったのですが、その年の夏にインド最北部のラダックへ行きました。この本の中でも触れていますが、ラダックというのはチベット文化の色濃いところで、インドではあるものの宗教はチベット仏教、そしてチベット医学も盛んにおこなわれています。そこでチベット医学の施術者・アムチのウルギャンさんと丸一日を共にしていただきました。高度4千メートルあたりの信じられないくらい美しい景色の中で一緒に薬草を摘んだりして、一生の思い出になる素敵な一日でした。

チベット医学は中国由来の漢方とは成り立ちも考え方も違うのですが、やはり治療に使われるのは薬草と鉱物です。ウルギャンさんは、採ってきた植物を乾燥させて薬研(やげん))で轢いて自分で薬を作っておられて、診察室には瓶詰めにしたものが数十個並んでいます。お腹の調子が悪いという患者さんがやってこられたのですが、脈診と舌診をして、薬を調合して渡しておられました。治ったのかどうかは知る由もありませんが、面白い経験でした。

そのときに、ラダックでのチベット医学事情を聞いたところ、一時期は圧倒的に西洋医学が優勢になったけれど、それだけでは不十分だということで伝統医学が盛り返してバランスのとれた状態になったということだったのです。あぁなるほどと、すごく腹落ちしました。ふたつは役割が違うんや、と。このことと、数少ないとはいえ自分で経験した漢方薬の効果が、対談の企画を喜んでお引き受けした大きな理由です。

私見ですが、人間は理解できないことがある時、二通りの極端な対応をしがちです。ひとつは受け入れてしまう、もうひとつは拒絶してしまう。しかし、どちらも決して正しくないでしょう。少しでも理解しようと試みる、それが正しい、あるいは、合理的な態度ではないかと考えています。

東洋医学がどうして効くのか、わかったとは言いません。でも、どうしてそれがわからないのかはよく理解できました。え~、その程度なんかと言わないでください。なにもわからなかったことから考えると、ものすごく大きな進歩です。もしかしたらプラセボ効果みたいなものもあるかもしれません。でも、それでもまったくかまわない。なにしろ、そのメカニズムを知りたいのです。何千年もの間、効果があるからと生き残ってきた方法です。そこには何らかの原理があるはずなのですから。

たとえば慢性疼痛です。慢性疼痛というのは、痛みの原因がなくなってからも痛みを感じ続けるような状態です。これは脳の中にそういう回路ができてしまっているためと考えられているのですが、鍼灸が効果をあげる例のあることが報告されています。これなどは、最新の脳科学研究の技術を使えば解明が一気に進む可能性があるのではないかと期待しています。漢方薬については成分が多すぎて、完全に理解することは難しいのではないかという印象です。とはいえ、所詮は有限個の化学物質なのですから、いずれ効果がでるメカニズムのわかる日が来るかもしれません。

東西の医学を比較することによって、西洋医学だけでは見えにくい、別の角度からの医学リテラシーを身につけてもらえたら、というのも、この本の大きなたくらみです。面白かっただけじゃなくて、勉強になったわ。と、思っていただけたら望外の喜びです。みなさま、よろしくお願い申し上げます。

『医学問答』 あとがき(仲野徹)を改変


作者: 仲野 徹
出版社: ミシマ社
発売日: 2024/3/20
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作者: 若林理砂
出版社: ミシマ社
発売日: 2024/5/17
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この二冊の刊行を記念して、5年前の対談が復活です!
また、『この座右の銘が効きまっせ!』の自書自賛レビューはこちら


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作者:成毛 眞
出版社:中央公論新社
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