鳥ノンフィクションに外れなし
長くノンフィクションを読んでいるからこそ、確信をもっていえる。私は鳥好きではないが、「鳥」が魅力的な生き物なのは認める。だがそれよりも鳥の研究者が熱意に満ちた変人、いや硬骨漢なのだと思う。
カラスの研究者である松原始もその一人。『もしも世界からカラスが消えたら』(エクスナレッジ)では、生物の進化史に、カラスという種がいなかったらという壮大な命題に取り組む。
今朝、ゴミを漁っていたカラスが消滅したわけじゃない。鳥類学者の名に懸けて、他の鳥の習性を比較検討し、カラスの代わりになる鳥を探す。時には神話の世界からアニメに登場する「カラス」の代役まで考える。
たとえばスカベンジャー(動物の死骸や他の動物の食べ残しを漁る生物)としてカラスの代わりになりそうな鳥はコンドルやハゲワシ、トビなど猛禽類。海辺でハンバーガーを取られた経験がある人ならトビは想像しやすいか。
カラスが道具を使うことは広く知られている。その頭の良さはインコやオウムが取って代わるかもしれない。
ここに至るまでの考察は詳細極まりない。鳥ノンフィクションの新たな金字塔である。
鳥類学者でなくても鳥に魅せられてしまうこともある。『カワセミ都市トーキョー』(平凡社新書)の著者、柳瀬博一は東京工業大学のリベラルアーツ研究教育院の教授で生物学者ですらない。
出会いは偶然であった。コロナ禍が真っ只中の2021年ゴールデンウィーク、自粛生活にあきあきしていた著者は、自転車か徒歩で近場を散歩するのを楽しみにしていた。趣味の一眼デジカメは相棒だ。
人の集まるところを避け、川沿いや緑地公園など水辺や緑のあるところに足をむけていた。都内の中心部を流れる一級河川、高速道路が頭上を走る東京らしい景色のなか、川岸はコンクリートで覆われていても川べりには緑がある。そんな川の中は鳥やら魚やらが見てとれる。そばにいた老人に何がいるのかと話しかけた。
「カワセミがいるよ、ほら、あそこに」
カワセミは漢字で「翡翠」と書く。まさにヒスイのように青緑の美しい鳥が都会のど真ん中に佇んでる姿を見て、著者は恋に落ちたのだ。
人里離れた清流でしか生きられないと思っていたカワセミが東京ど真ん中の川で、ふんだんなエサに恵まれて繁殖していたのだ。今まで意識していなかった東京の自然に目を向け、アンテナを張って観察すると、コンクリートで覆われ、水質悪化で一度は死に絶えた後、復活した川もカワセミの楽園であることがわかってきた。
そこから推察できるのはカワセミとヒトとが共存できる街であり、新しい野生の逞しさであった。
そうそう、チルチルとミチルが探した青い鳥はどこにいたんでしたっけ?
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足立真穂のレビュー 私はこの本を読んでから、頭上の枝を観察することが当たり前になった。今年の春も桜の枝の間に巣を見つけた。